■ 第9講 取締役の義務 会社法の基礎p 103

● 取締役が会社に対して負うべき義務はいかなる根拠に基づくか


民事責任
不法行為責任(民709)
債務不履行責任(民415)
債務不履行責任とはいったい会社に対するいかなる債務の不履行を想定するか?が問題となる。

取締役の善管注意義務の根拠
商法254条3項により取締役と会社の関係は委任関係、従って、会社の受任者として善管注意義務を負う(民644)

善管注意義務の内容
他人の財産の管理者として尽くすべき程度の注意、つまり合理的な企業人を基準とする注意が必要

● 商法254条3項と254条の3の関係

254条の3(忠実義務)と善管注意義務は同質か異質か?

異質説
根拠

忠実義務は取締役が自己と会社との間で利益が相反する取引において地位を利用して私腹を肥やすことのないよう行動すべきことを義務づける行動規範として機能

善管注意義務は会社の被った損害額を取締役に賠償させるべき責任を基礎づけ、 忠実義務は取締役がその地位を利用して得た利益を会社に返還させるべき義務を基礎づけ、264条3項の介入権の説明として説得性をもつ。

批判
第一点についても、忠実義務が善管注意義務の一局面を指すものとしても、同様に取締役の行動規範としての意義を強調することは可能。
第二点について、結果的には取締役の利得を吐き出させる点ではほとんどかわりないし、忠実義務異質説は、現行の266条1項の説明に窮する。
264条違反(競業取引違反)は265条1項5号の法令違反にあたり、責任は過失責任であり、無過失責任ではない。
取締役会の承認を得ない利益相反取引の違反行為は過失責任(5号)で、取締役会の承認を得た適法行為も過失推定責任である(4号)と解することができる。

同質説(判例通説・八幡製鉄政治献金事件判決)

254条の3は、善管注意義務の存在を強調する注意義務
契約上の義務である民法644条の義務の会社法における法定義務化を図った規定
取締役の負うべき善管注意義務が株主の同意をもっても軽減し得ない強行規定と解すべきである以上、254条の3は取締役の義務の法定義務化の根拠規定として位置づけるのが妥当

● 経営判断を誤った取締役に対して善管注意義務違反を問いうるか?


■ 第10講 競業取引規制 会社法の基礎p 125

● 取締役個人の利益と会社の利益が衝突する場合
利益相反取引(265条)
直接取引
取締役と会社との直接の取引。実質的には民法108条が禁止する自己契約・双方代理の場合と異なることがない。
取締役会の承認(265条1項前段)を要する

間接取引
形式的には会社と第三者の取引であっても、実質的には取締役が当事者として利益を受ける場合
取締役会の承認を要する(265条1項後段)
手形取引についても取締役会の承認を要する(判例同旨)
手形債務は原因債務とは別個独立の債務
原因債務よりも厳格な債務
改めて取締役会の承認が必要であると解される
265条は会社の利益保護を目的とするから、会社が不利益を受ける恐れのない取引には及ばない(贈与、普通契約約款にもとづく取引など)

取締役会の承認のない取引
相対無効(判例)
取締役の承認のない取引は無効であるが、会社が第三者に対して無効を主張するには、承認のないことにつき第三者が悪意があったことを主張・立証することを要する
直接の取引当事者間では取引は無効だが、善意の第三者との間では有効とする(第三者の善意は推定される)
競業取引はどのように規制されているか

趣旨
取締役が会社の営業に関する秘密を知りうる立場にあるからその地位を個人的利益のために利用してはならないというにとどまらず、取締役が競業をすることによってその個人的利益が会社の業務執行に影響を及ぼすことを防止しようという趣旨

競業取引の承認手続
取締役会の承認(264条1項)
承認にあたっては、取締役会にその取引の重要な事実を開示しなければならない(264条1項)
その承認の効果は、競業取引の効力とは無関係
競業取引についての取締役会の承認の意義は会社の損害発生の予防にある
なお、取締役会の事前承認の有無に関わらず、それに関する重要事項を取締役会 に報告する義務を負う(264条2項)
事後承認は認められない
文理解釈および、取締役の会社に対する責任免除の規定(266条5項)より事後承認は認められないと解すべき
そのかわり事前承認のない競業取引については介入権の行使と損害額の推定が認められている

介入権の成立要件

介入権
取締役会の事前承認を受けなかった取引に対しては、会社は介入権の行使と損害賠償の請求をなすことができる(264条3項、266条1項5号、4項)

介入権が認められた理由
損害額の立証の負担軽減と得意先の維持
介入権の行使には損害額の立証さえ要しないし、奪われた得意先は損害賠償では回復し得ないからである

介入権の成立要件
「自己のために」の意味
得意先の維持という介入権の制度目的を達成し、かつ第三者の利益を実質的に損なわない限度で介入権を認めるのが妥当であるから、取締役の計算において違反取引がなされた場合と解すべきである。

会社の営業の部類に属する取引の判断基準
定款目的基準説(多数説)
具体的営業取引基準
市場競争基準

通説
会社が現に営んでいる事業の他、すでに開業の準備に着手している事業および過去において営んでいた事業であって、一時的に停止手いるに過ぎないものも含み、この営業の「部類に属する取引」とは、同種または、類似の商品、役務を対象とする取引で会社と競争関係を生ずるものをいう

取締役の第三者責任、名目取締役

A株式会社は、代表取締役B が自己の地位の安定を図るため、独断で総会屋に対し多額の金員を供与していたため運転資金不足で倒産した。なお、この会社には適法な選任手続きは経ているものの実際には業務に全く関与していない取締役Cがいる。A株式会社の債権者甲が、BおよびCに対して直接追求しうる民事上の責任を説明しなさい。


問題提起

A株式会社の代表取締役Bは、権限を濫用し、自己の地位保全のために総会屋に多額の金員を供与し、そのため会社は倒産した。
会社債権者甲はBおよび名目的取締役Cの責任を追及できるかが問題となる。
民法上、故意又は過失によって他人の権利を侵害したものに対し、その責任を追及できるのは、相手方と直接の関係が存し、かつ損害賠償を請求しうるのは直接損害のみである(民法709条)。
しかし、本問の場合、債権者甲とB,Cの関係は間接的であり、また甲の損害も会社倒産によるものであり、間接損害である。
従って、甲は民法上B,Cに対し責任を追及できないことになる。

規範定立
次に266条の3によって甲がB,Cに対し責任を追及しうるかが問題となる。
この点に関し、趣旨の解釈に争いがある。
266条の3の趣旨を、取締役の広範な職務を考え、軽過失についてはこれを軽減するものであると解する説がある(不法行為特則説)。
しかし、合理的な経営のため制度的に所有と経営が分離し、強大な権限を有する取締役に対し、商業使用人に対しては特段職務執行につき保護を与える規定がないのに、取締役にのみ保護を与えるのは不均衡である。
私は、266条の3の趣旨を、取締役の強大な権限にかんがみ、また経済社会で株式会社の占める地位から第三者に対してもその責任を負わせたものであると解する(特別法定責任説)。

従って、この説にたてば、第三者を強く保護する趣旨から、取締役の任務懈怠と相当の因果関係があるかぎり、第三者もまた、間接損害であっても職務執行につき悪意又は重過失ある取締役に責任を追及しうると解する。
つぎに、「職務執行につき悪意又は重過失」の要件が問題となるが、任務懈怠につき悪意又は重過失であることを立証すれば足ると解される。
本問において自己の地位保全のため金員を総会屋に供与したのであるから、294条の2第1項に違反し、任務懈怠につき悪意であることは明白である。
また、合法的に選出されたが、経営にかかわっていない取締役Cに対して責任を追及しうるかどうかが問題となるが、追及しうると解する。
けだし、取締役は強大な権限を有することから、慎重適正な会社経営をなすために互いに牽制することが要求されており(260条1項)、名目的な取締役といえども会社の利益のために忠実に職務執行をなす義務があり(254条の3) 少なくとも任務懈怠につき重過失があるため責任を免れないと解する。

あてはめ
以上より、会社債権者甲は、自らがこうむった損害につき取締役A,Bに対し損害賠償を請求しうると解する。
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