
1.一般原則

1租税法律主義
2租税公平主義
3租税法における法の解釈
4.租税法における信義則の問題とはどのようなものがあるか、例を挙げながら論じなさい。
5. 税法の法源
1.所得税法において違法所得はどのように扱われるか。
2.所得税法において違法所得はどのように扱われるか。
3.事業所得
4.事業所得と給与所得の区別
5.事業所得と不動産所得の区別について
1.■ 租税回避
2.租税回避と仮装行為の違いについて述べなさい。
3.租税回避について述べ、具体例を挙げながら、その取扱について述べなさい。
4.■ 判)租税回避行為の否認:東京地裁平成元年四月十七日判決
5.同族会社の計算行為の否認規定ができた背景 1953
1.1.一般原則
1.1.1租税法律主義
租税法律主義 金子宏 73頁
1.定義
国または地方公共団体が租税を課し、徴収するためには、必ず法律の根拠がなければならない。
憲法84条「あらたに租税を課し、または現行の租税を変更するには、法律または法律の定める条件によることを必要とする」
2.機能
法的安定性と予測可能性
3.租税法律主義の内容
(1.)課税要件法定主義
課税要件のすべてと租税の賦課徴収の手続きは法律によって規定されなければならない
cf.)
法律の留保の原則
法律の根拠なしに、政令省令で新たに課税要件に関する定めをなし得ない
法律の優位の原則
法律の定めに違反する法令省令などが効力を持たない
政令省令との委任の関係
租税立法に於いて課税要件および租税の賦課徴収に関する政令省令に委任することは許されるが、課税要件法定主義の趣旨から、一般的白紙的委任は許されない(その区別の
基準は、委任の程度内容が法律で明確にされなければならない
(2.)課税要件明確主義
法律またはその委任のもとで政令や省令に於いて、課税要件及び租税の賦課徴収の手続きに関する定めをなす場合に、その定めはなるべく一義的で明確でなければならない。
例外(不確定概念)
同族会社の行為否認について、行為及び計算を容認した場合には、税負担を不当に減少させる結果になると認められる場合には、その行為または計算に関わらず税額を計算できる(所得税法157条、法人税法132条)。租税負担の公平の維持の観点か
ら、不合理であるとはいい切れない。
不確定概念の種類
1.その内容が余りにも一般的ないし不明確であるため、解釈によってその意義を明確にするのは困難であり、公権力の恣意や乱用を招く恐れのあるものは不可
ex.「公益上必要のあるとき」「景気対策上必要のあるとき」
2.中間目的ないし経験概念を内容とする不確定概念であって、法の趣旨目的に照らしてその意義を明確にすることが可能なものは解釈上許される。
3.合法性原則
課税要件が充足されている限り、租税行政庁には租税の減免の自由はなく、租税を徴収しない自由もなく、法律で定められた通りの税額を徴収しなければならない。
機能
4.租税法律主義の手続法的側面
3つの制約原理
(1)納税義務を軽減免除する場合、納税者に有利な行政先例法が成立している場合には、租税行政庁はそれに拘束され、それに対する処分をなし得ない
ex.パチンコに対する、通達による課税の問題
(2)行政先例法として成立していない場合でも租税行政庁が納税者に有利な解釈適用を広く一般的に行い、それを是正する措置を執っていない場合に、合理的理由がないのにも関わらず、特定の納税者を不利益に扱うことは、平等取扱原則に反して許されない
ex.
1.固定資産税の課税物件たる固定資産に対し、現在一般に時価より低く評価されているのに対し、特定の土地を高く評価することは、評価が時価の範囲であったとしても、平等取扱原則に反して違法である(宇都宮地裁昭和三十年十一月三十日判決)。
2.全国の大多数の税関が事実上、特定の期間特定の物件に対して法定の課税標準ないし税率よりも軽減された税率で関税の賦課徴収処分をなし、その後法定の課税標準、ないし税率との差額を徴収したこともなく、また追徴する見込みもないような場合、その状態の継続する期間中に右の慣例に反してなされた関税の賦課徴収は租税平等主義に反して違法と言うべきである(大阪高判昭和44年9月30日判決)。
(3)信義則ないし禁反言の法理が適用される場合
5.信義則と合法性の原則の関係
(1)租税法に於いても、個別的救済の法理として信義則ないし禁反言の法理が認められるべきであり、その範囲で合法性の原則が制約を受けることがある。
(2)租税法における合法性の原則と法的安定性=信頼の保護の要請の租税法上の価値観の対立の問題。利益状況のいかんによっては、合法性の原則を犠牲にしてまでも、なお納税者の信頼を保護することが必要であると認められる場合がありうるのであり、その場合に於いて、信義則の適用が肯定されるべきである。
1.要件
(1)租税行政庁が納税者に対して信頼の対象となる公の見解を表示したこと(法令の解釈に
関する見解の表示も含まれる)。
(2)納税者の信頼が保護に値すること
(3)納税者が表示を信頼し、それに基づいてなんらかの行為をしたこと
2.手続的保障原則
租税の賦課徴収は、適正な手続で行われなければならず、それに対する訴訟は公正な手続で行われなければならない。
2.租税公平主義
租税法 金子宏 83頁 税法入門第三版 33頁
1.定義
税負担は、担税力に則して公平に配分されなければならず、各種の租税法律関係において、国民は平等に取り扱われなければならない。および、租税の「公平」ないし「中立性」を要請するものである.
2.根拠
(1)利益説ないし対価説(応益課税の原則)
税負担は各人が国家から受ける保護や利益に比例して配分されるべき。18、9世紀の主張
(2)義務説
租税を納付するのは国民の当然の義務であり、国民を代表する議会で租税負担額を決議し、税負担は各人の担税力に応じて配分されるべきである(応能課税の原則)。
3.担税力の意義
各人の経済的負担能力の指標
(1)所得および財産
担税力の指標として優れる。累進税率の適用が可能。公平な税負担の配分ならびに富の再分配機能の要請により適合。
(2)所得
担税力の指標として最も優れる。累進税率の適用が可能。
基礎控除その他の人的諸控除や「負の所得税」の制度を通じて最低生活水準の保証を図ることが可能。
所得税は富の再配分や社会保障の充実の要請に最もよく合致する。
(3)消費
担税力の指標として最も劣っており、消費税は課税対象の選択の仕方によっては逆進的となりやすい.
・実際の制度では、所得の把握は正確と言うわけではなく、所得税および財産税および消費税を適当に組み合わせることが好ましい
4.水平的公平
同一の経済的利益を得たものは同一額の租税を負担すべきである。
5.垂直的公平
所得などの大きさの違う人々の間には異なる額の租税額が負担されるべきである。
6.公平性ないし中立性の原則
同様の状況にあるものは同様に、異なる状況にあるものは状況に応じて異なって取り扱われるべきこと
公平と効率及び簡素はトレードオフの関係にある場合があるが、原則としては公平を優先すべき
3.租税法における法の解釈
租税法 金子宏 110頁
1.定義
具体的な事例に対し、法を適用する場合において、法の意味を明らかにすること
「うたがわしきは納税者の利益に」
課税要件事実の認定において、課税要件に該当する事実の存否を判定しがたい場合、その事実は存在しないと認定すべきことを意味する。租税法の解釈原理としては成り立たない。仮に、租税法上許されうる解釈方法を用いてもなおその法的意味を把握できないような規定がある場合には、その規定は、前述の課税要件明確主義に反して無効である。
2.借用概念と固有概念
法的安定性および予測可能性の観点から、租税法が私法上の概念を借用している場合には、原則として本来の法分野におけると同意義に解すべきである。
但し、別意に解すべきことが租税法規の明文またはその趣旨から明らかな場合はこれにあたらない。
ex.所得税法60条1項1号における「贈与」には贈与者に経済的利益を生じさせる負担付贈与を含まないと解すべきである。
3.私法上の法律行為に瑕疵がある場合の租税法への影響
(1)課税の対象が、私法上の行為によって生じた経済的成果
経済的成果が現に生じている場合、その原因たる私法行為に瑕疵があっても課税要件が
充足され、課税は妨げられないと解される。
後に原因たる行為の瑕疵を理由として経済的成果が失われた場合、更正(課税庁が正し
い税額に修正すること)がなされねばならない。
(2)課税の対象が、私法上の行為それ自体である場合(有価証券取引税;有価証券の譲渡)、
私法上の行為の法的効果である場合(不動産取得税;不動産の取得)
課税対象たる私法上の行為が無効であれば課税要件は最初から充足されず、または取
り消しうる瑕疵があったため取り消された場合は、さかのぼって課税要件は充足されなかったことになる。
(3)課税の対象が、事実行為である場合(印紙税;対象となる文書の作成)
その原因をなす法律行為の効力は課税になんの影響も及ぼさない
・私法上の法律行為には瑕疵がないが、当初予定していたよりも重い納税義務が生ずることに気づき、相手方の同意に基づきこれを取り消しまたは解除した場合
法定申込期限が経過するまでの間になした取消・解除に限り、その効果を主張しうる。
4.租税法における法の適用
租税法の適用にあたっては課税要件事実の認定が必要であるが、「外観と実体」、「形式と実質」が食い違っている場合には、実体や実質に従ってそれらを判断しなければならない(実質課税主義 所得税法12条)。
5.仮装行為
意図的に真の事実や法律関係を秘匿して見せかけの事実や法律関係を仮装すること。通謀虚偽
表示(民法94)など。
ex.地上権を設定すると共に地価相当額の融資を受ける旨の契約が虚偽表示であって、土地を
譲渡する契約が隠蔽されていた場合は、実質課税の原則に従って課税要件事実を認定され、
譲渡所得が発生する。
4.租税法における信義則の問題とはどのようなものがあるか、例を挙げながら論じなさい。
信義則とは、法律生活において相手方の合理的な期待や信頼を裏切ってはならないという原則であり(民法1条2項)、人はいったんなした言動をそれが誤りであったとして翻すことはできないという禁反言の法理とともに同種の目的に奉仕する法原則である。
信義則は、私法と公法を通ずる法の一般原理であって、租税法にも適用されると解される。
しかしながら、租税法は法的安定性ないし予測可能性を要請する租税法律主義に従い、特に法律の根拠なくして租税を減免することは許されないとする合法性の原則との間で問題が生ずる。
この点において、租税法における信義則の適用の有無は、租税法律主義の側面である合法性の原則を重視するか、納税者の信頼の保護を重視するかという問題に帰着するが、利益衡量において、合法性の原則を犠牲にしても納税者の信頼を保護することが必要な場合には、個別救済手段として信義則の適用が肯定されるべきである。
しかしながら、根本原則たる合法性の原則を犠牲にしてなお納税者の利益を図る場合、厳格な要件の適用のもとで個別的救済が認められると解される。
その要件とは、租税行政庁が納税者に対し信頼の対象となる公的な見解を表示したこと、納税者の信頼が保護に値すること、納税者が表示を信頼しそれに基づいてなんらかの行為をなしたこと、がこれにあたる。
第一の要件に関して、行政活動の一環としてなされたもので、原則として一定の責任ある立場のものの正式の見解の表示のみが信頼の対象となると考えるべきであり、例えば、納税相談における租税職員の助言や調査担当職員の申告指導は公の見解にはあたらないと解される。
第二の要件において、納税者が善意であり、その責に帰すべき事由がないことが条件となる。納税者が表示の誤りを容易に認識しうる場合、表示に気づいている場合、納税者の側の事実の隠蔽や虚偽の報告などその責に帰すべき事由がある場合は保護に値しないことになる。
第三の要件において、納税者が表示を信頼して何らかの行為をなした場合、例えば、ある団体への寄付が特定寄付金に該当し、寄付金控除の対象となるという表示を信頼して寄付をなした場合、は納税者の信頼を保護する必要がある。また、ここにいう行為には作為のみならず不作為も含まれると解される。
5.■ 税法の法源
租税法 金子宏 97頁
● 国税
1各国税に共通の定め
国税通則法
国税徴収法
国税犯則取締法
2それぞれの国税にかんする法律
所得税、法人税、消費税、
各国税に対する特別措置
租税特別措置法
● 地方税
1各地方税について、地方公共団体の課税権について枠を定める
地方税法
2地方税の賦課・徴収
条例、規則
■ 政令・省令
● 内閣が制定する法
施行令(政令)
所得税法施行令、法人税法施行令
● 各省大臣が制定する法
施行規則(省令)
所得税法施行規則
■ 告示
● 法律の規定を補充するもの(大蔵大臣の指定により法が補充されること
■ 条例・規則
● 条例
地方公共団体の議会が制定する法
税務条例
● 規則
地方公共団体の長が制定する法
税務規則
■ 条約
● 租税条約
■ 通達
● 上級行政庁が法律・政令・省令等の解釈や行政の運用方針について下級行政庁
に発する命令や指示
1.2.所得概念について
1.所得税法において違法所得はどのように扱われるか。
租税法 金子宏 113頁162頁
1.所得の意義
一般的に人の担税力を増加させる経済的利得は全て所得を形成する(包括所得概念)
2.根拠
(1)利得者の担税力を増加させるものである限り、課税の対象とすることが公平負担の要請に合致すること
(2)全ての利得を課税対象とし、累進税率の適用の元におくことが所得税の再分配機能を高めること
(3)所得の範囲を広くすることにより景気調整機能が増大すること
3.課税の対象となる所得
(1)いかなる源泉から生じたものも課税の対象となると解すべき
(2)現物給付・債務免除益等の経済的利益も課税の対象となると解すべき
(3)不法な利得も課税の対象となると解すべき
・利得者が私法上有効に保有しうる場合
・私法上無効であっても、現実に利得者の管理支配の元にある場合(最判昭和四十六年十
一月九日判決)。 但し、不法な利得が後に返還・没収などによって失われた場合、納税者は更正の請求を
求められる(所得税152条所得税施行令274条)。
・私法上の法律行為に瑕疵がある場合の租税法への影響
(1)課税の対象が、私法上の行為によって生じた経済的成果
・経済的成果が現に生じている場合
1利得者が経済的利益を管理支配の元においている限り課税の対象となる
2後に原因たる行為の瑕疵を理由として経済的成果が失われた場合、更正の請求が可能
(2)課税の対象が、私法上の行為それ自体である場合(有価証券取引税;有価証券の譲渡)
1課税対象たる私法上の行為が無効であれば課税要件は最初から充足されない。
2取り消しうる瑕疵があったため取り消された場合は、さかのぼって課税要件は充足さ
れなかったことになる。
(3)私法上の行為の法的効果である場合(不動産取得税;不動産の取得)
1課税対象たる私法上の行為が無効であれば課税要件は最初から充足されない。
2取り消しうる瑕疵があったため取り消された場合は、さかのぼって課税要件は充足さ
れなかったことになる。
(4)課税の対象が、事実行為である場合(印紙税;対象となる文書の作成)
その原因をなす法律行為の効力は課税になんの影響も及ぼさない
4.違法所得が課税の対象となるか否か
(1)違法所得
私法上の行為が違法であるにもかかわらず、当事者の管理下におかれている所得
(2)課税の行為が私法上の行為それ自体である場合
私法上の行為が無効である場合は課税要件は充足されない
(3)課税の対象が私法上の行為によって生じた経済的利益である場合
現に当事者の管理下にある所得は、その源泉を問わず課税対象となる。
ただし、後に経済的利益が返還・没収等で奪われた場合は、更正の請求を求めることができる。
2.所得税法において違法所得はどのように扱われるか。
今日において、所得概念は一般的に人の担税力を増加させる経済的利得は全て所得を形成するという包括所得概念が一般的な支持を得ており、利得者の担税力を増加させるものである限り、課税の対象とすることが公平負担の要請に合致すること、全ての利得を課税対象とし、累進税率の適用の元におくことが所得税の再分配機能を高めること、所得の範囲を広くすることにより景気調整機能が増大すること、がその根拠としてあげられる。
所得税法において、固有概念たる所得とは、いかなる源泉から生じたものも課税の対象となると解され、現物給付・債務免除益等の経済的利益も課税の対象となると解すべきであり、不法な利得も課税の対象となると解すべきである。
不動産取得税のように課税の行為が私法上の行為それ自体である場合、私法上の行為が無効である場合は課税要件は充足されないことになが、課税の対象が私法上の行為によって生じた経済的利益である場合、私法上無効となった場合に課税要件を充足するか否かにつき問題が生ずる。
包括所得概念において、所得とは人の担税力を増加させる経済的利益を意味し、従って私法上無効な行為によって獲得した経済的利益であっても、現に当事者の管理下にある所得は、その源泉を問わず課税対象となると解する。しかし、管理下にない場合は、課税対象とはならないと解される。
ここにおいて違法所得とは私法上の行為が無効であるにもかかわらず、当事者の管理下におかれている所得を意味する。従って、違法所得といえども当事者の管理下におかれている限り所得税法上課税対象となると解される。
3.事業所得
租税法 金子宏 182頁 百選第三版 62頁
1.事業所得の定義
諸事業によって生ずる、資産勤労結合所得である(所得税法27条1項)。
事業とは、自己の計算と危険に基づき営利を目的として対価を継続的に得る経済的活動である
事業と非事業を区分する基準は必ずしも明確ではなく、諸般の事情に基づき社会的通念に従っ
て判断する必要がある。
2.事業所得の認定例
(1)弁護士の顧問報酬の多く
(2)執行官がその職務上得る所得
(3)電気会社との委託検針契約に基づき、受領した委託手数料
(4)事業を廃止した後、清算過程で原材料の処分によって得た所得
(5)営業補償金の内、事業の廃止による営業権の対価補償の性質を有するものは、譲渡所得
にあたるが、休業補償など収益補償の性質を有するものは、事業所得にあたる
3事業所得の金額の算定
1総収入額ー必要経費(所得税法27条2項)
2総収入に認定される事例
(1)事業から生じた一切の合計額
(2)棚卸資産を家事のために消費した場合の資産の時価相当額(所得税法39条)
(帰属計算に対する課税の一例)
(3)棚卸資産の贈与・遺贈または低額譲渡があった場合の資産の時価相当額(所得税法40
条)
(未実現の利得に対する課税の一例)
(4)一定の農作物に対する収穫時の時価相当額(所得税法41条)
(5)補助金など一定の公益事業のために交付されるものは算入されない(所得税法42条以
下)
4.事業所得と給与所得の区別
- 事業所得とは、農業、漁業、製造業、棚卸業、小売業等諸事業から生ずる所得のことである(所得税法27条1項)。事業所得とは、資産勤労結合所得であり、ここにおいて事業とは、自己の危険と計算に基づき営利を目的として対価を得て継続的に行う経済活動であるが、事業と非事業との区別は明確ではなく、諸般の事情により決するより他はないと解する。
- 給与所得とは、賃金、俸給、給料、歳費及び賞与ならびにこれらの性質を有する給与である(所得税法28条1項)。給与所得は、勤労性所得であり、雇傭関係またはそれに類する関係において使用者の指揮命令のもとに提供される労務の対価を広く含む概念である。給与所得は定期に支払われる必要はなく、役員賞与、従業員賞与も給与所得にあたり、また金銭以外の経済的利益も勤務の対価としての性質を持っている限り広く給与所得に含まれ、無利息貸付の利息相当額、タクシー会社の乗車券などフリンジ・ベネフィットも給与所得に含まれる。但し、出張旅費、赴任費など職務の執行に直接必要な給付は給与所得には含まれず、従業員の海外慰安旅行費用のうち会社負担分は福利厚生費にあたると解される。
- 両者の区別は、自己の計算と危険に基づき営利を目的として対価を得て継続的に行う経済行動から得られる所得であるか、雇傭関係またはそれに類する関係において他人の指揮命令に服して得られた所得であるか、という基準によって判断されると解する。
- 例えば、弁護士の顧問報酬に対して、顧問契約に基づき自己の計算と危険において独立して継続的に営む場合は、上の基準からも事業所得に該当し、或いは、大学教授の非常勤講師料について、労務がその雇用契約等に基づき他人の指揮命令の下に提供され、その対価であるかぎり給与所得に該当すると解される(判例同旨)。
事業所得と給与所得の計算
1.事業所得の計算
(1)事業所得にかかる総収入金額ー必要経費
(2)自家消費した棚卸資産の時価相当額は総収入額に算入(39条)
(3)棚卸資産の贈与・遺贈、定額譲渡の場合、時価相当額は総収入金額に算入(40条)
(4)農作物については、収穫基準により収穫時の時価相当額を総収入金額に算
入
2.給与所得の計算
(1)給与など収入金額から給与所得控除および特定支出控除を控除した残額
(2)給与所得控除は、1.必要経費の個別的認定が困難であり、2.担税力が資産性所得および資産勤労結合所得よりも弱く、3.給与所得の捕捉率が他の所得より高く、4.源泉徴収されることから事業所得などの予定納税との利息分を調整する必要があること、が根拠とされる。
(3)特定支出控除とは、通勤費、転勤費、研修費、資格取得費、単身赴任者帰宅旅費の5種類について要件を満たせばこれをなすことができる。
5.事業所得と不動産所得の区別について
- 事業所得とは諸事業において生ずる資産勤労結合所得を言う(27条1項)。ここにおいて事業とは、自己の計算と危険に基づき営利を目的として継続的に対価を得る経済行動であり、農業、漁業、製造業、棚卸業、小売業などがこれにあたるが、非事業と事業を区分する基準は明確ではなく、諸般の事情に鑑み社会通念に則して判断する必要がある。
- 次に不動産所得とは、不動産、不動産の上に存在する権利、船舶または航空機の貸付による資産性所得をいう(26条1項)。
- 両者の区別の基準は、事業所得が資産勤労結合所得であり、不動産所得が資産性所得であることから、不動産の貸付が事業として行われている場合においても、人的役務が伴わない場合や人的役務が付属的なものに過ぎない場合は事業所得ではなく、不動産所得であると解する。
1.3.租税回避について
1.■ 租税回避
● 租税法 金子宏 115頁
● 租税回避の意義
1.租税回避の意義
法形式の選択の自由を濫用し通常用いられない法形式を選択することによって租税法の定める課税要件を回避し、結果的には通常用いられている法形式と同様の経済的利益を獲得するが税負担を減少軽減させること
私的自治の原則ないし契約自由の原則の意義
法形式の選択の自由
租税法の定める課税要件
通常の各種の私的経済活動を定型化したもの
2.租税回避の事例
土地を譲渡する代わりに、そのうえに極めて長期間の地上権を設定し、土地の使用収益権を相手に移転し、それと同時に弁済期を地上権の終了する時期として相手方から
当該土地の時価に等しい金額の融資を受け、さらに契約は当事者のいずれか一方が希望する限り更新することおよび地代と利子は同額で相殺する契約
3.類似概念
1脱税
課税要件の充足の全てもしくは一部を秘匿する行為
2節税
租税法規が予期しているところに従って税負担の減少を図る行為
3仮装行為
意図的に真の事実や法律関係を隠蔽ないし秘匿して、見せかけの事実や法律関係を仮装すること。通謀虚偽表示(民法94条)
隠蔽ないし秘匿された事実や法律関係に従って課税がなされなければならない (実質課税の原則)。
4 .租税回避行為の否認規定がない場合に否認が認められるかどうか
(1)否認が認められない場合
・租税公平主義に反する
・法的安定性ないし予測可能性を保持しようとする租税法律主義の原則から、法律の根
拠なしに否認をなすことは困難
・実務上、否認の要件や基準の判断を巡って、相当の負担があると考えられる。
(2)結論
法律の根拠がない限り、租税回避行為の否認は認められないと解すべき
(3)租税回避行為の否認規定がない場合の立法上の対処
新しい租税回避の類型が発生すれば立法府がすばやくこれに対応するという形で解決を図るべき
(4)前記事例の解釈
建物の所有を目的とする地上権の設定をしたことに伴い、通常の場合の金銭の貸し付
けに対し、特に有利な条件による金銭の貸し付け及びその他の経済的利益を受けた場合には、当該特別利益その他経済的利益の額は権利金に含めることとし、権利金の額
が土地の価格の10分の5を越えている場合は、それを譲渡所得として課税する(所得税法33条1項)。
2.租税回避と仮装行為の違いについて述べなさい。
- 租税回避とは、通常用いられない法形式を用いることによって課税要件の充足を回避し、通常用いられる法形式を同様の経済的利益を得ながら、租税の軽減もしくは回避を図る行為をいう。仮装行為とは、真の事実ないし法律関係を秘匿し、見せかけの事実、ないし法律関係を仮装することを言う。
- 租税回避や仮装行為は、これが認められると通常の法形式を採用し、ないし仮装をなさなかった者との間で、税負担は国民の間の担税力に即して公平に分配されなければならず、また租税法律関係において国民は平等に取り扱われなければならないとする租税公平主義に反することとなる。
- 例えば、土地の保有者が土地譲渡所得を回避するために、土地に対して極めて長期の地上権を設定し、これを相手方に移転するとともに地上権の終了を満期とする、地価の時価に等しい融資を受け、利子と地代を相殺するという契約をなした場合を考える。
- 仮装行為は、見せかけの事実ないし法律関係を仮装する行為であるが、租税法上、課税要件事実の認定にあたっては、外観や形式に従ってではなく、実質や実体に従ってそれらを認定すべきであるとする、実質課税の原則により、見せかけの事実や法律関係に従って課税が行われるものではなく、実体や実質に従って課税要件事実が認定されなければならない。従って上記の例において、契約自体が仮装行為であるならば、実体に従って課税要件が充足され、譲渡所得が発生することになる。
- これに対して、租税回避において、当事者が用いた私法上の法形式を租税法上は無視し、課税要件が充足されたものとして取り扱う租税回避行為の否認について、法律上規定がないものについてこれを認めるか否かについて問題が生ずる。
- 否認規定がある場合において、租税回避行為を否認するのは租税公平主義に合致する。しかし、否認規定がない場合、これを認めることは即ち、租税行政庁に通常用いられない法形式を通常用いられる法形式にひき直し、課税要件を充足したとしてとりあつかう権限を認めたことになり、法的安定性ないし予測可能性を要請する租税法律主義に反すると解する。また、その否認の要件や基準の設定に関して実務上の困難が生ずる。
- 従って、否認規定がない場合、租税回避行為の否認は認められないと解される。もっとも、立法上も租税行為の否認が認められないと言うわけではなく、立法において迅速に租税回避行為の否認に関する個別規定を設けるべきである。
- このように解すると、上記の例は、建物の所有を目的とする地上権の設定をしたことに伴い、通常の金銭の貸付の条件に比して特に有利な条件による金銭の貸付その他特別の経済的利益を受ける場合には、これを権利金に組み入れ、権利金の額が土地の時価相当額の10分の5を超える場合は、それを譲渡所得として課税することは、規定が存在することにより租税回避の否認が認められることになる(所得税法33条、所得税法施行令79条1項、80条)。
3.租税回避について述べ、具体例を挙げながら、その取扱について述べなさい。
- 租税回避とは、通常用いられない法形式を選択することによって課税要件を回避し、通常用いられる方形式と同様の経済的利益を受けているにもかかわらず、税負担を軽減、回避することを租税回避という。
- 租税回避は、課税要件が充足しているにもかかわらず、この一部または全部を秘匿する脱税とは、租税回避が課税要件の充足そのものを回避する行為であるという点で異なる。また、意図的に真の事実や法律関係を秘匿し、見せかけの事実や法律関係を仮装する仮装行為とは、租税回避行為が異常な法形式を採用しているにせよ、事実や実際の法律関係のもととしているという点において異なる。
- このような租税回避の例として、例えば、土地を譲渡するとき、譲渡所得を逃れるために、土地に対して極めて長期間の地上権を設定し、土地の使用・収益権を相手方に移転し、それと同時に弁済期を地上権の終了する時期として相手方から土地の時価に等しい金額の融資を受け、地代及び利子を相殺するという契約がこの例にあたる。
- このような租税回避の効果について、当事者が用いた私法上の法形式を租税法上もそのまま容認し、それに即して課税をなすべきか、それとも私法上は有効なことを前提として、租税法上はそれを無視し、通常用いられる法形式に対応する課税要件が充足されたものとして課税を行うべきかという問題がある。
- 当事者が用いた法形式を租税法上は無視し、通常用いられる法形式に対応する課税要件が充足されたものとして、取り扱うことを租税回避行為の否認というが、否認をなさない場合、通常の法形式を採用していた者との間で、租税公平主義に反することとなる。従って否認規定が存在する場合には、その要件に従って否認が認められると解される。
- しかし、否認規定が法律上ない場合にも否認が認められるとする場合、法的安定性ないし予測可能性を保持しようとする租税法律主義の原則に反するという問題が生ずる。
- しかし、法律上の根拠なしに当事者の選択した法形式を、通常用いられる法形式にひき直し、それに対応する課税要件が充足されたとしてそれを取り扱う権限を租税行政庁に認めることは困難であり、また否認の要件や基準の設定に関して実務上の困難が生ずる。
- 従って、法律の根拠がない限り、租税回避の否認は認められないと解する。そして、租税回避行為は、立法が迅速にこれに対応し個別の否認規定を設けることによって対応すべきであると解する。
- 上記にあげた例によれば、建物の所有を目的とする地上権等の設定をしたことに伴い、通常の金銭の貸付の条件に比して特に有利な条件による金銭の貸付その他経済的利益を受けた場合、その貸付を受けることによって得られた経済的利益は、権利金の額に含めることとなり、権利金の額が土地の価額の10分の5を超える場合、それを譲渡所得として課税する旨を定めている(所得税法33条、所得税法施行令79条1項、80条)。
4.■ 判)租税回避行為の否認:東京地裁平成元年四月十七日判決
● 百選第三版 28頁
● 事件概要
不動産所有者であるXがその支配する不動産管理会社Sに高額の管理料を支払うことに
よって、租税負担を軽減することを意図したものと思われる。高額の管理料をXの不動
産所得の必要経費として控除することにより、Xの不動産所得の金額及びそれに対する
所得税額が減少する。他方、管理料を受けとるSは、それから生ずる法人税を負担し、
またSの役員でもあるXは右管理料を原資とする役員報酬を受け、それについて給与所
得として所得税の課税を受ける。このような法人税およびSの所得税を考慮に入れても
全体としてXの租税負担が減少することを意図していたと思われる。
● 問題提起
所得税と法人税の税率の違いの利用および給与所得控除の利用を伴う納税者間における
所得移転と、同一納税者における所得種類の転換による租税軽減が問題となる。
● 分析
所得税法157条
第157条(同族会社等の行為又は計算の否認)
税務署長は、次に掲げる法人の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主若しくは
社員である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者(その法人の株主又は社
員である非居住者と当該特殊の関係のある居住者を含む。)の所得税の負担を不当に減少さ
せる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に
際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の各年
分の第百二十条第一項第一号若しくは第三号から第八号まで(確定所得申告書の記載事項)
又は第百二十三条第二項第一号、第三号、第五号若しくは第七号(確定損失申告書の記載事
項)に掲げる金額を計算することができる。
一内国法人である法人税法第二条第十号(定義)に規定する同族会社
二イからハまでのいずれにも該当する内国法人
イ三以上の支店、工場その他の事業所を有すること。
ロその事業所の二分の一以上に当たる事業所につき、その事業所の所長、主任その他のその
事業所に係る事業の主宰者又は当該主宰者の親族その他の当該主宰者と政令で定める特殊
の関係のある個人(以下この号において「所長等」という。)が前に当該事業所において
個人として事業を営んでいた事実があること。
ハロに規定する事実がある事業所の所長等の有するその内国法人の株式の数又は出資の金額
の合計額がその内国法人の発行済株式の総数又は出資金額の三分の二以上に相当すること。
2 前項の場合において、内国法人が同項各号に掲げる法人に該当するかどうかの判定は、同
項に規定する行為又は計算の事実のあつた時の現況によるものとする。
1 .所得税法157条の趣旨は、課税要件の充足を免れるために異常な法形式を選択し、通
常の法形式と同様の経済的効果を得たにもかかわらず、租税負担の不当な軽減ないし排
除をなす租税回避の否認をなすことにある。その要件は、納税者の租税回避の意図の存
在の有無を必要とせず、経済人の行為として不合理な行為計算について否認を認めるも
のであると解される(課税要件明確主義の例外事項)。
2 .不確定概念であるが、法の趣旨・目的に照らしてみてその意義を明確になしうるものであり、必要性と合理性を有する。
● 問題点
本件の場合、必要経費に関する一般規定である所得税法37条により過大管理料分は必要経費として控除できないと解すことができる。租税回避の否認規定は、通常の課税規定では租税負担の不当な軽減排除がなし得ない場合にその適用があると考えられるので、
不適切ではなかったかの批判がある。
●
5.同族会社の計算行為の否認規定ができた背景 1953
わが国では法人成りの現象が顕著であり、実体が個人企業と異ならない法人がきわめて多い。これらの法人においては、家族構成員を役員または従業員としてこれに報酬、給与を支払い、所得を分割する傾向があり、また利益を内部に留保して、法人税率よりも高い所得税の段階税率の適用を回避する傾向が見られる。また、これらの法人は、一般に、一人または少数の株主によって支配されており、所有と経営が結合しているため、少数の株主のお手盛による取引や経理が行われやすく、その結果として、税負担が減少することが少なくない。
これらの傾向に対処するため、租税法は、これらの法人のうち、一定の形式的基準に該当するものを同族会社と呼び、その他の法人と異なる特別の定めを置いている。特別の定めの第一は、同族会社の特別税率に関する定めであり(法税87条)、第二は、同族会社の行為計算の否認を認める規定である(所得157条、法税132条、相続税64条、地税72条の43)。ここに同族会社とは株主等(個人株主のみでなく法人株主も入る)の三人以下及びこれらと特殊の関係を有する個人、法人(同族判定株主、同族関係者)の有する株式の総数または出資の金額の合計額が、その会社の発行株式の総数または出資金額の50/100以上に相当する会社をいう(法税2条10号)。同族関係者の範囲は、政令によって定められているが、個人たる同族関係者には、株主等の親族、使用人等が該当し(法税施行令4条1項)、法人たる同族関係者には、株主等の一人の有する他の会社の株式の総数が発行済株式の半数以上である場合の当該他の会社等が該当する(同2項)。法人税法が、株式会社の場合について、3人以内の株式及びその同族関係者の持株比率を基準として同族会社の範囲を画しているのは、これらの株主がその議決権を通じて会社の配当製作や営業政策を左右できることに着目してのことであるから、ここにいう株主及び同族関係者の有する株式とは、記名株式については、その名前で会社の株式名簿に記載されている株式(商223条)のみでなく、名義書換未了の株式あるいは他人名義で所有している株式であっても、その所有している株式であっても、その所有者が、株式名簿上の株式と特殊関係をもち、その議決権の行使を左右できるような場合をも含むと解すべきである。なお、わが国の法人の大部分は同族社である。
同族会社の行為、計算の否認の歴史 569
同族会社の計算行為の否認規定は、大正12年の所得税法の改正により、同法73条の3に設けられたものであるが、右規定は、大正15年に「同族会社ノ行為又ハ計算ニシテ其ノ所得又は株主社員若は之と親族、使用人等特殊ノ関係アル者ノ所得二付所得税捕脱ノ目的ありと認められるものある場合に於テハ其の行為又は計算に拘らす政府は其の認むる所に依り此等の者の所得金額を計算することを得」と改正された。
この規定は、昭和15年の法改正により法人税に引き継がれ、その後数次の改正を経て現行の132条の規定となったものであるが、規定の内容は、大正15年の右改正後のものと基本的には異ならないものと解されている。
同族会社の行為、計算の否認 833
法人税法は、同族会社の行為または計算で、これを認容した場合に法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものであるときは、税務署長はその行為または計算に関わらず、その認めるところにより、法人税額を計算することができる旨を定めている。(法人税法132条1号)。所得税法(157条1項1号)及び相続税法(64条)も、同様に、同族会社の行為または計算の結果、その株主ないし社員またはその同族関係者の所得税または相続税ないし贈与税の負担が不当に減少すると認められる場合について、それを否認する権限を税務署長に与えている。これらの規定は、同族会社が少数の株主ないし社員によって支配されているため、当該会社またはその関係者の税負担を不当に減少させるような行為や計算が行われやすいことをかんがみ、税負担の公平を維持するため、そのような行為や計算が行われた場合に、それを正常な行為や計算に引き直して更正または決定を行う権限を税務署長に認めるものである。
同族会社の計算行為の否認規定の適用例 1121
同族会社の行為計算否認規定の適用類型として、国税庁長官が発遺した旧法人税基本通達355は、11項目に到り、1.過大出資した場合、2.社員の所有資産の高価買入、3.低価譲渡をした場合、4.個人的地位に基づく寄付金を支払った場合、5.無収益資産を譲り受けた場合、6.過大給与した場合、7.業務に従事していない社員に対して給与を支給した場合、8.用益増与をした場合、9.高額賃借料をもって賃借している場合、10.不良債権の肩代りをした場合及び、11.債務を無償で引受けた場合、を掲げていた。他方、昭和40年の法人税法の全文改正において、所得計算の通則的規定として22条が設けられ、その2項で無償譲渡または役務の無償提供による収益が益金の額に算入されることが明確にされ、また、過大な役員報酬、寄付金の損金不算入の規定(34条から36条)が設けられ、これらの取扱が明確にされるなど規定が大幅に整備された結果、法132条の適用範囲はかなりせばめられている。この意味で、法132条は個々の条項では対応し得ない場合に適用されるべき規定として、位置づけることができよう。そうして、個々の条項では対処することができない場合として、赤字法人を合併法人とし、黒字法人を被合併法人とするいわゆる「逆さ合併」による繰越欠損金の損金計上につき、法132条が適用さるべきものとした広島地裁判決がある。
基準 1116
同族会社の計算行為の否認規定にいう、税負担の不当な減少を結果とすると認められる同族会社の行為、計算とは何かについて、判例の中には、二つの異なる傾向が見られる。一つは、非同族会社では通常なし得ないような行為、計算、すなわち同族会社なるがゆえに容易になしうる行為、計算がこれに当たる、と解する傾向があり(同族対比説)、他の一つは、純経済人の行為として不合理、不自然な行為、計算がこれに当たると解する傾向である(合理性基準説)。いずれの考え方をとっても、具体的事件の解決に大きな相違は生じないであろうが、非同族会社の中には、同族会社にきわめて近いものから所有と経営の分離した巨大会社に至るまで、種種の段階のものがあり、何が同族会社であるがゆえに容易になしうる行為、計算に当たるかを判断することは困難であるから、抽象的な基準としては、第二の考え方をとり、ある行為または計算が経済的合理性を欠いている場合とは、それが異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合をも含む、と解するのが妥当であろう。したがって、否認の要件とては、経済的合理性を欠いた行為または計算の結果として税負担が減少すれば十分であって、租税回避の意図ないし税負担を減少させる意図が存在することは必要ではないと解される。
非同族会社に及ぶかどうか 1229
同族会社の計算行為の否認規定の射程距離について、非同族会社の行為または計算に及ぶかの点は、否定見解と、肯定見解がある。この点につき、同族対比説の立場からすれば、否定見解が、また合理性基準説の立場からすれば、肯定見解が比較的容易に結びつくものと思われる。肯定見解では、旧法人税基本通達の定める事項について、まず、真実性課税の原則、実質課税の原則が優先適用されること、したがって、法132条は、租税回避行為に当たる場合に適用される旨述べられている。しかし私としては、否定見解にたって、非同族会社については、その行為、計算の否認を認める規定がないから、その行為、計算が経済的合理性を欠いている場合であっても、それを否認することは認められないと解する。ただし、その後の法人税法の改正によって、非同族会社についても、過大な役員報酬や退職給与は損金算入を否定されており、役員に対する「債務の免除による利益その他の経済的利益」の給与のうち臨時的性格を持つものは、賞与として損金算入を否定されている。また、資産を無償または低額で譲渡し、あるいは役務を無償または低額で供与した場合も、その時価相当額または時価との差額に相当する金額は、益金に算入することとされている。これらの規定は、同族会社にも適用されるから、現在では、同族会社の行為、計算の否認規定の適用範囲は以前よりもずっとせまくなっているが、しかし、この規定が意味を失ってしまったわけではない。
法132条が憲法14条及び84条に抵触するか 571
法人税法132条は憲法14条及び84条に抵触するか否かという問題がある。判例では、右規定の趣旨が同族会社は同族関係者による会社経営の支配権の確立しているところ、租税負担を不当に減少させる目的で、非同族会社では容易になしえない行為または計算が行われやすいことをかんがみみ、租税負担の公平を期するため、そのような行為、計算を否認し、通常とられる行為、計算に従って更正等を行う権限を徴税機関に認めたものであって、右規定には合理性があるから憲法14条に違反せず、また、右規定は過客観的、合理的基準に従って否認すべき権限を徴税機関に付与したものであるから、憲法84条に違反しないとしている。
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