負債概念とデリバティブの負債性について

                          発表日:平成9年10月30日
発表者:B班 

はじめに

  わが国において、デリバティブ取引の経済的実態は一部を除いてオフバランスとされている。しかしながら、
 その取引規模は財務情報として看過できるものではなく、オンバランス化に関する議論が高まっている。そこ
 で、デリバティブの負債性に焦点を絞って、わが国の状況および方向性について考察したい。

負債概念の定義

 1 FASBにおける負債概念の定義

   (1) 定義

     「負債とは、過去の取引または事象の結果として、ある特定の実体に対して、将来、資産を譲渡しま
      たは用役を提供しなければならない現在の債務から生じる発生の可能性の高い将来の経済的便益の
      犠牲である」(1)

   (2) 要件

     ウ将来の経済的便益の犠牲
    エある特定の実体に対する現在の債務
    オ発生の可能性が高い
    カ過去の取引または事象の結果

 2 IASにおける負債概念の定義

     「負債とは、過去の事象から発生した特定の企業の現在の責務であり、当該責務を履行するためには
      経済的便益を有する資源が当該企業から流出すると予想されるもの(2)。」

 3 わが国における負債概念の検討

   (1) 商法上の負債項目

     ウ商法287条の2における引当金規定
     エ計算書類規則第25条〜第33条

   (2) 証券取引法上の負債項目

    ウ財務諸表等規則第45条〜第56条
 エ財務諸表規則取扱要領第113条〜第145条の2
 オ中間財務諸表規則第26条〜第30条
 カ中間財務諸表規則取扱要領第19条〜第20条
 キ連結財務諸表規則第35条〜第41条
 ク連結財務諸表規則取扱要領第55条〜第62条
 ケ「企業会計原則」などの諸会計基準
  ロ「企業会計原則」「同注解」
  ワ連結財務諸表原則・同注解
  ン中間財務諸表原則・同注解
  ゙外貨建取引等会計処理基準・同注解
  ゚リース取引に係る会計基準・同注解

 (3) 特別法上の負債項目(3)

     @渇水準備引当金(電気事業法)
     A異常危険準備金(保険業法)
     B証券取引責任準備金(証券取引法)
     C商品取引責任準備金(商品取引所法)

   (4) 公正なる会計慣行上の負債項目

     「個別の規定がない場合には、この一般規定の解釈として、公正な会計慣行が導入されることになる」
      (4)

     商法32条2項「公正ナル会計慣行ヲ斟酌」の解釈(5)

      @「公正」とは商人の営業上の財産および損益の状態を明らかにする目的に合致すると一般に認め
       られていることである。
      A「会計慣行」とは広く実際慣行として実施されているもののみならず、実際慣行として実施され
       ていなくても公正な会計基準も認められると考える。
      B「斟酌」とは、公正な会計慣行がある以上は、特別な事情がない限りしたがわなければならない
       ということを意味する。

      公正なる会計慣行とは、基本的には「企業会計原則」だが、合理的な理由による会計慣行も含まれ
      る。さらに「企業会計原則」に規定のある項目についても他に公正と認められる会計慣行があるな
      らば、その会計慣行も含まれると考えられる(6)。

 4 制定法からの解釈

   (1) 商法(計算規定)

     ウ商法の趣旨

      ロ配当可能利益を適正に算定することを通じて、会社債権者と株主との利害調整を図ること(資
        本維持)
      ワ財産管理の受任者が、現在の株主に対して投資の意思決定に必要な情報を開示すること(状況
        報告、顛末報告)および債権者に与信の意思決定に必要な情報を開示すること(状況開示)。

     エ商法の趣旨からの負債概念の解釈

      ロ資本維持の観点から

         資本維持の理念をもっぱら清算時において会社債権者に対し、資本に見合う会社財産を確保
         することであると解するならば、負債は弁済されなければならない法的債務であれば十分で
         あると解され、また継続企業を前提とすれば、会社財産を確保する観点から引当金等の計上
         が容認される。しかし、法的安定性、予見可能性を考慮する必要があることから、負債とは
         法律上の債務及び商法287条の2等、特定項目が負債であると商法上特に認められる項目であ
         ると解釈される。

      ワ状況報告、顛末報告の観点から

         株主(又は債権者)が意思決定を行うために必要な情報を開示するという観点から、負債概
         念は広くとらえられるべきものと解される。しかし、法的安定性、予測可能性を考慮するな
         らば、負債概念を無制限に広げるべきではない。従って、負債とは法律上の債務及び商法28
         7条の2等、特定項目が負債であると商法上特に認められる項目であると解釈される。

   (2)証券取引法

     ウ証券取引法の開示規制の趣旨

       投資意思決定情報の提供(証券取引法1条)

     エ証券取引法上の開示規制の趣旨からの負債概念の解釈

       近年におけるわが国の証券市場のグローバル化、経済のボーダレス化を前提にすれば、投資意思
       決定情報について諸外国と異なる解釈を採用すべきではないとの必要性に欠けることから、他の
       主要先進諸国や国際会計基準の解釈と同様に解釈してよいのではないかと考えられる。即ち、負
       債とは過去の取引又は事象の結果として、ある特定の実体が負った発生の可能性の高い経済的便
       益の犠牲であると解釈しうる。

   (3) 制定法による現在の会計規範をより重視した場合の負債概念

     主として、法的債務、および特定の実体の財産および損益の状態を公正に表すために、必ずしも法的
     強制力を伴うものではないが、特定の実体が負担することが確実な必要性であり公正な会計慣行であ
     ると認められるもの(具体的には商法287条の2等一定の要件を満たす項目)であって、将来において
     出捐をともなう可能性が高いもの、並びに一定の政策目的を達成するために制定法によって特別に定
     められたものである。

。 デリバティブの定義

 1 FASBによるデリバティブの定義

   先物、先渡、スワップもしくはオプション契約またはその他類似の性質を有する金融商品(7)

2 IASによる金融商品の定義

   一方の企業に金融資産を、他の企業に金融負債あるいは持分金融商品をともに生じさせるあらゆる契約(8)

  但し、IASではデリバティブの定義はなく、金融商品の定義の中に含まれる

 3 わが国におけるデリバティブの定義

   わが国において、デリバティブ取引とは先物取引・オプション取引・先渡取引・スワップ取引を指す
(財務諸表等規則第8条第10項)。

「 デリバティブの負債性の検討

 1 個別のデリバティブの検討

   (1) 先渡契約

     →契約金額が法的債務となる

  (2) 先物契約

     →値洗制度によって日々値洗いが行われる
      →値洗いによって取引所と会員の間で未収金又は未払金が発生していると考えられる。
       →未払金部分はわが国における負債概念の定義に合致する

   (3) スワップ

     契約で債務が確定している
     →スワップによる債務は負債概念の定義に合致する

   (4) オプション

     ウコールの売建

       売手はオプションの行使によって買い付ける義務
       とそれに対する対価の受取権利をもつ。

     エプットの売建

       売手はオプションの行使によって売り渡す義務とそれに対する対価の受取権利をもつ。

     オコールの買建

       買手のオプションの行使は自分に有利なポジションの場合に行われ、その時点で、対価の支払義
       務が付属的に発生する。

     カプットの買建

       買手のオプションの行使は自分に有利なポジションの場合に行われ、その時点で、対価の支払義
       務が付属的に発生する。

」 総括


(注)
(1)平松一夫・広瀬義州訳「FASB財務会計の諸概念(改訂新版)」中央経済社、1994年、148頁等参照。
(2)財務諸表の作成表示に関するフレームワーク、par.49(b)。
(3)新井清光「新版 財務会計論(第3版)」中央経済社、1996年、127頁参照。
(4)矢沢 惇「企業会計法講義(改訂版)」有斐閣、1973年、10頁。
(5)矢沢 惇、前掲書、10頁。財務諸表規則1条1項参照。
(6)鈴木竹雄・竹内昭夫「会社法(第3版)」有斐閣、1994年、329頁参照。
(7)矢沢富太郎「新金融商品の会計−デリバティブを中心として−」税務経理協会、1997年、42頁参照。
(8)矢沢富太郎、前掲書、43頁。

(参考文献)

Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting Concepts No.6:Element of Financial Statements, December 1985.

広瀬 義州「会計基準論」中央経済社、1995年。
広瀬 義州・平松 一夫訳「FASB財務会計の諸概念(改訳新版)」中央経済社、1994年。
広瀬 義州「デリバティブ取引の会計基準」QRI REPORT、1995年11月号。
広瀬 義州「会計基準設定のための日本版概念フレームワーク」商事法務、第1455号(1997年4月)。
広瀬 義州「取得原価主義の再検討」企業会計、第47巻第1号、1995年。
新井 清光「わが国における会計職能の将来−主として会計規範の領域について(黒沢委員会報告)−」(新井清光編著「企業会計原則の形成と展開」中央経済社、1989年、所収)。
新井 清光「新版 財務会計論(第3版)」中央経済社、1996年。
安藤 英義「商法会計制度論」国元書房、1985年。
飯野 利夫「財務会計論」同文館。
上田 明信「改正会社法と計算規則」商事法務研究会、1964年。
江村  稔 「企業会計と商法」中央経済社、1977年。
大住 達雄「商法と会計」中央経済社、1950年。
大住 達雄「企業会計講話 改正商法を基準として」中央経済社、1964年。
太田 哲三「新版 会計学」千倉書房、1955年。
太田 哲三「負債の評価」会計、第30巻第4号、1922年。
川村 義則「デリバティブのオンバランス化について−FASB公開草案とわが国の商法会計−」税経通信、1996年9月号。
北村 敬子「デリバティブ等の会計処理と原価主義会計」企業会計、第47巻第1号、1995年。
北村 敬子「金融商品の評価と開示」企業会計、第45巻第8号、1993年。
北村 敬子「負債概念の再検討」企業会計、第47巻第8号、1995年。
銀行研修社編「デリバティブ取引入門」銀行研修社、1995年。
黒沢  清 「体系制度会計 負債・資本」中央経済社、1977年。
古賀 智敏「デリバティブ会計」森山書店、1996年。
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佐藤 信彦「FASBの負債概念と負債の認識」会計、第145巻第5号。
実方 謙二「会計帳簿・貸借対照表」(「基本法コンメンタール第四版/商法総則・商行為法」日本評論社、1997年)。
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白鳥 栄一「国際会計基準とわが国の会社法」商事法務、第1432号(1996年8月)。
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西澤  茂 「会計上の認識と経済的実質の原則−契約会計に関連して−」企業会計、第46巻第5号、1994年。
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山田 昭広「FASB公開草案『派生及び類似の金融商品並びにヘッジ活動の会計』および『包括利益の報告』の概要」企業会計、第48巻第9号、1996年。
矢沢  惇 「企業会計法講義(改訂版)」有斐閣、1973年。
矢沢 富太郎「新金融商品の会計−デリバティブを中心として−」税務経理協会、1997年。


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