
日本型コーポレート・ガバナンスの進化と変容(1997年前期)
イ)最も興味深かった部分の内容の要約
Shleifer ,A.,and R.W.Vishny(1996), A Survey of Corporate Governance, NBER
Working Paper 5554 第8章及び第9章について簡単に要約する。この章においては、どのようなコーポレート・ガバナンスシステムが最適なのであろうかということについて日本、アメリカ、イギリス、ドイツの法制度と所有構造の各国比較を考慮したうえで検討を加えている。
まず、第一にアメリカ、イギリスにおいては所有構造の特徴として基本的に大株主は見られず(但し、近年においてはアメリカ、イギリスでは、年金基金、保険、投資信託など機関投資家による株式保有額が株式発行総額の55〜60%と非常に大きい
)、いわば市場に依存したガバナンスシステムが構築されている。すなわち、株主権の保護や、取締役の選出規定、受託義務違反の取締役への訴訟権などの投資家及び少数株主の法的保護が強い一方、企業倒産についても再建手続が重視されることから(米国の倒産手続は倒産企業の優先的な債権者を犠牲にして、経営陣、株主、劣後債権者にとって有利に働くことがある
! )比較的債権者の権利が縮小されており、これらの法的規制が、株式市場での投資家の積極的参加や敵対的買収を通じて、企業価値を最大化するような効率的な投資を達成する市場によるガバナンスシステムを構築しているといえる。
これに対して、日本、大陸系欧州諸国においては、大株主・銀行へ大きく依存したコーポレート・ガバナンスシステムが構築されているといえる。すなわち、ドイツにおいては、所有構造の特徴として、金融機関の株式保有が多い(上場株式の9%を銀行が保有、11%を保険会社が保有
" )ように銀行の企業への影響力が大きく、銀行が米国に比べてより大きな権利をもっているため(銀行の株式保有については原則として制限がなく、銀行は、寄託された無記名株式の議決権を代理行使することを通じて、多くの大企業について議決権の過半数を実質的に保有し、また、銀行は株式会社の監査役会へ監査役を派遣することにより影響力を行使している
$ )、銀行を中心にしたガバナンスシステムが構築されている。また、日本については、所有構造の特徴として、法人株主の相互持合による安定株主化があり、少数株主および債権者の権利という点に関して、米国型とドイツ型の中間にあるといえる(結論としては、通常時においては企業の内部者を中心とし、一定の危機的状況においてはメインバンクと相互持合による企業グループに依存したコーポレート・ガバナンスシステムを構築していると考えられる)。
そして、以上の分析からエージェンシー問題を解消し、資金提供者が投資に対してリターンを得ることを確保するためには(また、経営者、株主(出資者)、債権者、従業員、取引先といった利害関係者の利害調整を円滑・妥当に行いつつ、企業経営を適切に規律づけるためには)、アメリカ型及び日本・ドイツ型のいずれがよいかを考察するが、いずれも一長一短であり、唯一の理想的なシステムはないと結論づけている。つまり、不安定な株式保有と敵対的買収の組合せによって効率的の悪い経営陣を規律づけようとすれば、場合によっては経営者の行動に短絡的な視点を与えてしまい、投資の効率性を害するおそれがあり、日本やドイツでは安定的な大株主が直接経営陣に影響を与えうることから長期的な利益を図ることができる利点も考えられ、唯一の理想的なシステムはないとしている。
ロ)研究テーマとの関連においてその部分が興味深い理由
政府によるビックバン構想、経済のグローバル化、ボーダレス化により日本企業を取り巻く環境が激変する中で、どのようなコーポレート・ガバナンスシステムを構築すべきかということについての模索が始まっていると考えられるが、同論文のうちこの部分が一つの参考になると思われる。すなわち、研究テーマとの関連であるが、財務会計による会計情報は企業のステークホルダーが企業に関する状況を知るための重要な手段であり、また直接利害を調整する手段であることから、財務会計はコーポレート・ガバナンスシステムを支える重要なサブシステムであると考えられる。そして財務会計は所有構造の特徴と法制度に大きな影響を受けていると考えられ、今日、日本が直面している企業環境の変化に対応してどのような財務会計が必要となるのか、研究テーマとの関連で興味深いと思えたからである。
つまり、第一に、情報を提供し又は利害の調整を行う対象たる重視されるべき利害関係者とは誰であって、第二に、その利害関係者に有用な財務会計の機能は何であって、第三に提供される財務会計情報はどのような質的特徴を有するべきか、という問題を解決しなければならないと考えられる。
まず、財務会計の役割は利害調整機能と情報提供機能の二つに大別できると考えられる。
% 利害調整機能とは、企業と利害関係者間、または利害関係者間相互の利害の対立を調整することであり、典型として、処分可能利益算定機能がある。そして、情報提供機能とは、企業の経済活動及び経済事実に関する情報を利害関係者に広く知らせることである。次に、
財務会計において処分可能利益算定機能が重視されるならば、配当可能利益及び課税可能所得の厳密な測定に主眼がおかれるために、法形式が重視され、信頼性、検証可能性、客観性、確実性、保守主義性等の情報特性を有する取得原価主義評価が採用されることになる。また、
投資意思決定情報提供機能が重視されるならば、投資家に対する情報の提供に主眼がおかれ、法形式よりも実質優先主義に基づいて経済的実態の開示が重視されることになり、目的適合性、有用性、適時性、表現の忠実性などの情報特性を有する時価または公正価値評価が採用されることになる
& 。
国際的に比較すれば、利害調整機能を重視するのがフランス・ドイツなどフランコ・ジャーマン型の財務会計システムであり、その一方、情報提供機能を重視するのがアメリカ・イギリスを中心とするアングロ・サクソン型の財務会計システムである。日本の財務会計システムは、伝統的にいわゆるトライアングル体制と呼ばれるように商法会計、証券取引法会計、法人税法会計が商法を中心として相互に影響を与える体系であり(法人税法22条4項、商法32条2項)、大別すると商法会計、及び法人税法会計は利害調整を受け持っており、証券取引法会計は主に情報提供機能を受け持っているといえる。そして、会計情報の質的特徴として、基本的には信頼性、検証可能性、客観性、確実性、保守主義性等の情報特性を有する取得原価主義が採用されており、利害調整機能が重視されてきたといえる。しかし、今日、日本の企業会計において、この利害調整機能と情報提供機能のいずれを重視するかが問題となってきていると考えられる。
すなわち、日本の企業を取り巻く環境は激変しており、趨勢的に大企業が直接金融により資金調達をしうる能力が増大する一方でメインバンクのモニタリング能力は低下し、バブル期には非効率な投資や、トップマネジメントの違法行為や不正が相次ぎ、それを受けてバブル崩壊後は、社外監査役の導入(商法特例法18条)や、株主代表訴訟(商法267条1項)の制度改革など少数株主に対する法的な保護が強くなりつつあると考えられる。
一方、バブル崩壊後の日本経済を回復させる手段として、純粋持株会社が実質的に解禁されることになったが(独占禁止法第9条参照
)、これは市場を通じた企業再編をより容易にすると予想される。
また、国際資本市場において邦銀がいわゆるジャパンプレミアムと呼ばれる一般的な金利以上の金利を上乗せされるという問題が生じているが、これはグローバル・スタンダードと比較した場合、日本のディスクローズに不備があると考えられるため、資金を提供する側に自ら情報を収集するための追加的な保証費が必要となり、これがジャパンプレミアムになっていると考えられる。そしてこのようなジャパンプレミアムを解消するために、国際的に遜色のないディスクローズ制度が要求されている。
そして、バブル崩壊後の日本経済を立て直すために政府が推進する日本版ビックバン構想により、フリー・フェア・グローバルの3つの原理が推奨され、ディスクローズを積極的に進め、日本の資本市場を透明性のある市場にするという政策の一環として、連結財務諸表制度が改正されることになった。すなわち、連結財務諸表において連結子会社の資産負債について時価を用いる部分時価評価法と全面時価評価法が原則となり、取得原価を用いていた従来までの方法とは大きく異なり、証券取引法会計が独自色を強めることになった。
以上のように日本企業を取り巻く環境は激変しつつあり、個人株主の法的保護及び国際的にも遜色ないディスクローズ制度が採用されることになり、日本のコーポレート・ガバナンスシステムはよりアメリカ型に近い「市場によるガバナンスシステム」を取り入れるように移行していくのではないかと考えられる。
ハ)今後の研究の発展性
このトピックを今後研究の一環として発展させるとするならば、今後成立するであろう「日本版概念フレームワーク」との関連で、まず、日本のコーポレート・ガバナンスシステムを分析した上で、最も重視されるべき利害関係者とは誰であって、第二に、その利害関係者に有用な財務会計の機能は何であって、第三に提供される財務会計情報はどのような質的特徴を有するべきか、という問題を財務会計の問題として考えていくべきであろうと思われる。概念フレームワークとは、企業会計の憲法とも言えるものであり、企業会計原則の見直しが叫ばれる中、会計基準の設定もしくは見直しの基準もしくは理論的拠り所となるものである。
(
例えば、アメリカのFASB「概念フレームワーク」においては財務報告をめぐる諸環境を分析した上で、基本目的を定め、主たる利害関係者を定め、提供される財務会計情報の質的特徴を定めている。つまり、アメリカの社会経済を、高度に発達した交換経済が行われ、海外でも資金調達を行う企業が多く、所有と経営の完全な分離がはかられ、個人投資者はもとより機関投資者が発達している状況下にあると分析し
+ 、その上で、財務会計の基本目的を「原則として自分が欲する財務情報を企業に要求する権限をもたないために経営者が伝達する情報を利用せざるをえない外部情報利用者の情報ニーズから導き出される」とし、アメリカの証券市場が高度に発達していること,他の情報利用者よりも投資者,債権者などは財務報告に対する依存度合が高いこと,その意思決定および情報利用について研究され,説明される度合が高いこと,その意思決定がアメリカ経済社会における資源配分に著しく影響を及ぼすことなどから、特に投資者および債権者ならびに財務アナリストのニーズに焦点を合わせて財務会計が構築されている。
)
従って、市場型のコーポレート・ガバナンスシステムを取り入れるにしても、ただ単純にアメリカの会計基準をそのまま受け入れるのではなくて、我が国におけるコーポレート・ガバナンスシステムを踏まえた上で、今後の変容と共に我が国の社会経済を分析し、その上でどのような財務会計が必要になってくるのか考察が必要になってくるように思われる。
【参考文献】
広瀬義州,「会計基準論」,中央経済社,1995年
広瀬義州・平松一夫訳「FASB財務会計の諸概念(改訳新版)」中 央経済社、1994年
広瀬義州,「「企業会計原則」の見直しに伴う課題」,商事法務 No.1446(1997年1月)
新井清光,「新版 財務会計論第三版」,中央経済社,1996年
深尾光洋・森田泰子「コーポレート・ガバナンスに関する論点整理 および制度の国際比較」,『金融研究』13巻3号(1994年)
会計基準論131-134
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ることにする。それは,次郎でとりあげる本一ストラリア会計研究財団,
IASC,カナダ勅許会計士協会,イギリス会計基準審議会,ニュージーランド会
計士協会の概念フレ一ムワ一クにどのような点で影響を及ぼしているかを考察
するための出発点になると考えるからである。
1 SFAC第1号:営利企業の財務報告の基本目的(以下,「第1号」という)
「第1号」は,FASB「概念フレームワーク」の中心概念である「営利企業の
財務報告の基本目的」を明らかにすることを目的として, 4年余りの歳月をか
けて公表されたものである。また「第1号」は,「特定の項目または事象の会計
手続または開示実務を規定する財務会計基準を具体的に述べるものでもない。
むしろ,…一将来の財務会計基準および実務の基礎となり,またいずれ現行の
財務会計基準および実務を評価するための基礎として役立つような諸概念およ
び諸関係を述べるものである」(第3項)と明言し, トップ・ダウン・アプロー
チに基づき,それ以降のSFACが財務報告の基本目的を起点として展開される
ことが意図されている。「第1号」で取り扱われている内容は,卑見によれば,
総論部分に相当する「財務報告をめぐる諾環境」と各論部分に相当する「財務
報告の基本目的」とに大別できると思われる。以下,この区分に基づいて述べ
ることにする。
1−1 財務報告をめぐる諸環境
まず,「第1号」における基本目的は,「財務報告に関する目的であり,財務
諸表によって伝達される情報に限定されてはいない」(第5項)と述べられ,財
務報告の範囲が非常に広く想定されている。FASBが考える財務報告の範囲
は,1980年5月に公表された「コメント要請書一一財務諸表その他の財務報告
手段(64)」およびこれを受けてその後に公表された「第5号」によって明らかに
されているが,「第1号」で措定されている財務報告は,一般目的外部財務報告
(第1項)であり,基本財務諸表(財務諸表および注記)はもとより,その他の財
務報告の手段を包括する(第5項ないし第8項)きわめて広範囲なものであると
第3章 会計基準設定のための概念フレームワーク論 131
いえる。その理由は,「財務報告および財務諸表は,基本的に同一の基本目的を
もっており,財務諸表のほうが有用な情報をより一層提供できる場合もあるが,
また財務諸表以外の財務報告の手段のほうが有用な情報をより一層提供できる
場合もあり, さらにかかる財務諸表以外の手段を用いなければ,有用な情報を
提供できない場合もある」(第5項)からである。
次に,財務報告の基本目的は,「財務報告が行われる環境のみならず財務報告
とくに財務諸表によって提供されるような情報の特徴および限界によっても影
響を受ける」(第17項)と述べられ,財務報告環境と外部財務情報に着目して展
開される旨が明らかにされている。
まず,財務報告環境については,アメリカの経済的,法律的および社会的環
境について考察が加えられ(第10項ないし第16項),財務報告の基本目的は,かか
る環境分析に基づいて組み立てられている。したがって,「第1号」の基本目的
は,高度に発達した交換経済が行われ(第10項および第11項),海外でも資金調達
を行う企業が多く(第12項),所有と経営の完全な分離がはかられ,個人投資者
はもとより機関投資者が発達している状況下にある(第13項)アメリカの環境に
適合するのであって,それ以外の国々の環境においては,必ずしも適合しない
ことを意味しているものと解される。
次に,外部財務報告情報については,「貨幣単位で数量化できるものでなけれ
ばならない」(第18項)が,「その測定値は,正確な数値というよりも,むしろ規
則および慣習に基づく概算値」(第20項)であり,「情報は,すでに生起した取引
および事象の財務的影響を反映する一一概して歴史的なもの」(第21項)である
と認識されている。
以上のような前提条件のもとで,「第1号」における基本目的は,「営利企業
の一般目的外部財務報告の基本目的である」(第28項)と限定されるが,その基
本目的は,「原則として自分が欲する財務情報を企業に要求する権限をもたない
ために経営者が伝達する情報を利用せざるをえない外部情報利用者の情報二一
ズから導き出される」(第28項)とされる。さらに,潜在的な外部情報利用者と
しては,「出資者,与信者,仕入先,将来の投資者および債権者,従業員,経営
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者,取締役,得意先,証券アナリストおよび財務顧問,証券ブローカー,証券
発行引受業者,証券取引所,弁護士,エコノミスト,税務当局,監督官庁,立
法機関,経済新聞および報道機関,労働組合,商工団体,ビジネス調査機関,
研究者,学生その他の一般大衆」(第24項)が想定されている。
しかし,「第1号」は,外部情報利用者のなかでも,投資者および債権者なら
びに財務アナリストの二一ズに焦点を合わせている。それは,「情報利用者の範
囲を狭めるためではなく」(第30項),アメリカの証券市場が高度に発達している
こと,他の情報利用者よりも投資者,債権者などは財務報告に対する依存度合
が高いこと,その意思決定および情報利用について研究され,説明される度合
が高いこと,その意思決定がアメリカ経済社会における資源配分に著しく影響
を及ぼすことなど,おしなべて実務上の理由および「投資者および債権者の二一
ズを満足させるために提供される情報は,基本的に,投資者および債権者と同
様に営利企業の財務的側面に関心をもつその他の情報利用者集団の構成員に
とっても一般に有用であると思われる」(第30項)という理由による。
それでは,一口に投資者および債権者といっても,いったいどのような投資
者および債権者が想定されているのであろうか。「第1号」によれば,「投資者
および債権者という用語には,企業と直接に取引をする者および投資代行機関
を通じて取引をする者,有価証券を他の投資者または債権者から購入する者お
よび新規に発行した有価証券を企業または有価証券の引受業者から購入する者,
長期間にわたって資金の運用を委託する者および頻繁に売買を行う者,投資の
安全性を望む者および高率の報酬を得るためにはリスクもいとわない岩,なら
びに個人および専門の機関が含められる」(第35項)と述べられ, きわめて広義
である。さらに,「情報は,経営および経済活動を正しく理解し,また適度の注
意を払ってその情報を研究しようとする者にとって理解できるものでなければ
ならない」(第34項)と述べ,いわゆるナイ一ブな投資者等を財務報告の対象か
ら除外している。この趣旨は,ナイーフな投資者等も情報を利用することを認
めるものの,財務報告のレベルを彼らに合わせるのではなく,外部財務情報は,
正確な測定値ではなくて,多くの見積り,分類,要約,判断,配分などを伴う
第3章 会計基準設定のための概念フレームワ一ク論 133
概算的な測定値から作られているといった程度の理解はもっている投資者等を
前提とし,その結果,財務報告が複雑になっても,それは情報のもとになって
いる経済活動が複雑になってきていることに原因があることを広く認識させる
ためであるといわれている(65)。
1−2 財務報告の基本目的
かくして,「第1号」では,上述した財務報告をめぐる諸環境を前提に,以下
のように,より一般的な財務報告の基本目的からより具体的な基本目的へと展
開される。すなわち, まず,投資および与信意思決定に有用な情報に広く焦点
を合わせた基本目的から出発し,次いで,営利企業に投資または与信を行うこ
とによって受領する現金の見込額およびこれと当該企業にとっての現金受領見
込額との関係という投資者および債権者の基本的関心に焦点を合わせ,最後に
営利企業のキャッシュ・フロー見込額をあらかじめ評価するうえで有用な企業
業績の測定値をはじめとする企業の経済的資源,かかる資源に対する請求権お
よびこれらの変動に関する情報の提供に焦点が合わされている。
(1) 「財務報告は,現有および将来の投資者,債権者その他の情報利用者が合
理的な投資,与信およびこれに類似する意思決定を行うのに有用な情報を
提供しなければならない。情報は,経営および経済活動を正しく理解し,
また適度の注意を払ってその情報を研究しようとする者にとって理解でき
るものでなければならない。」(第34項)
_ 「財務報告は,現在および将来の投資者,債権者その他の情報利用者が配
当または利息により将来受領する現金見込額,その時期およびその不確実
性ならびに有価証券または債権の譲渡,途中償還または満期による現金受
領額をあらかじめ評価するのに役立つ情報を提供しなければならない。(投
資者および債権者のキャッシュ・フローは,企業のキャッシュ・フローと
関連しているので,一引用者)財務報告は,投資者,債権者その他の情報利
用者が,当該企業への正味キャッシュ・イン・フロ一の見込額, その時期
およびその不確実性をあらかじめ評価するのに役立つ情報を提供しなけれ
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ばならない。」(第37項)
` 「財務報告は,企業の経済的資源,かかる資源に対する請求権(当該企業
が他の企業に対して資源を譲渡しなければならない債務および出資者持分)なら
びにその資源およびこれらの資源に対する請求権の変動をもたらす取引,
事象および環境要因の影響に関する情報を提供しなければならない。」(第
40項)
このように,「第1号」では, トップ・ダウン・アフロ一チによって財務報告
の基本目的が展開され, キャッシュ・フローの見込額,その時期などを評価す
る情報が有用であると結論づけている。しかし,投資者,債権者等はキャッ
シュ・フロ一見込額を事前に評価するためには,発生主義会計によって測定さ
れる企業の業績すなわち稼得利益(earnings)およびその内訳要素に関する情報
のほうが,一般に現金収支の財務的影響に限定した情報よりも,「企業によって
現金が受領されまたは支払われる期間だけではなく,取引その他の事象および
環境要因の発生する期間において,企業の現金に影響を及ぼす当該取引その他
の事象および環境要因の財務的影響を記録するものである」(第44項)ので,良
好なキャッシュ・フローを生み出す企業の現在および将来の能力をあらわすす
ぐれた指標となる(第42項ないし第48項)と述べ,伝統的な発生主義会計を支持
している。さらに,あまりにも意思決定一有用性アフロ一チに基づいて情報利
用者の二一ズを追求すれば,株主の資産に対する経営者の受託責任報告を第一
義的な目的としている伝統的な財務報告の健全な基盤を崩壊しかねないとの趣
旨(66)から,経営者の受託責任遂行状況に関する情報の提供(第50項)の必要性
も説いている。
なお,以上述べたFASBの財務報告の基本目的に対しては,たとえば,ドパッ
チ(N.Dopuch)およびサンダ一(S.Sunder)両教授のように,FASBは「トウ
ル一フラッド委員会報告書」に依存しすぎているとか,前記`の基本目的は目
的を達成するための手段にすぎないなどの批判もあるが(67),かかる批判の当否
について検証することがここでの目的ではないのでその要点だけにとどめるが,
1番目の批判は「概念フレームワ一ク」形成の経緯を考えれば必ずしも的を射