
FASBによる負債の定義について
発表日 1997年7月3日
発表者 市川克也
. FASBによる負債の定義
1. "Liabilities are probable future sacrifices of economic benefits
arising from present obligations of a paticular entity
to transfer assets or result services to other entities in the future as
a result of past transactions or events." (1)
2. 「負債(Liabilities)とは、過去の取引または事象の結果(as a result of
past transactions or events)として、ある特定の実体に対して、将来、資産を譲渡しまたは用役を提供しなければ
ならない現在の債務(obligations)から生じる発生の可能性の高い(probable)将来の経済的便益
の犠牲(future sacrifices of economic benefits)である。」(2)
. 3つの基本的特徴 (3)
1. 負債は特定の事象の発生または請求に従って、ある特定の期日または確定しうる期日に、発
生の可能性の高い将来の資産の譲渡または使用による弁済を伴うような、一以上の他の実体
に対する現在の義務または責任を具体化している(要求される将来の資産の犠牲)。
2.その義務または責任は、将来の犠牲を避ける自由裁量の余地をほとんど残さないか、全く残
さずに、ある特定実体に債務を負わせる(特定の実体の債務)。
3. その実体に債務を負わせる取引および事象は既に生起している(過去の取引または事象の発
生)。
。. 負債の要件
1. 将来の経済的便益の犠牲(future sacrifices of economic benefits)
2. ある特定の実体に対する現在の債務(obligation)
3. 発生の可能性が高い(probable)
4. 過去の取引または事象の結果(as a result of past transactions or events)
「. 負債の要件の検討
1. 将来の経済的便益の犠牲(future sacrifices of economic benefits)の解釈
a. 「負債の本質は、将来に資産を犠牲にする義務または要求である。営利企業に資産を譲渡する
こと、用役を提供すること、または一つ以上の他の実体に対して当該実体が生ぜしめたか、
または実体に課せられた責任を果たすために何らかの方法で資産を消費することを要求する。」
(4)
2. 「過去の取引または事象の結果(as a result of past transactions or events)」の解釈
a. 「現在の債務と将来の債務を明確に区分し、現在の債務のみを負債の範囲とすることを意味す
る。」(5)
ex.)機械の購入のための予算は、将来において債務が発生するとしても、現在において債務を
発生させるような取引や事象はなんら発生していないのであるから、負債を発生させるこ
とにはならない。
3. 「ある特定の実体に対する現在の債務(obligation)」の解釈
a. 「ある特定の実体」の解釈
i. 営利企業
ii. 非営利組織体
b. 債務(obligation)の解釈
i. FASBによる債務(obligation)の定義
(1). 「負債の定義における債務(obligation)という用語は、法律上の債務(obligation)よりも 広義である。ここで、債務(obligation)という用語は、法的または社会的に課された義 務という日常用語としての通常の一般的意味で使われている。すなわち、人が契約、約 束、
道徳、責任、またはその他によって、ある行為を行わなければならないことであ る。それは、コモン・ロー上の債務(obligation)と同様に衡平法(equity)上のおよび推 定
(constructive)上の債務(obligation)を含む。」(6)
ii. コモン・ロー(common law)上の債務(obligation)の解釈
(1). コモン・ロー(common law)の意義 資料1参照
(2). コモン・ロー(common law)上の債務(obligation)
(a). 法的強制力を有する債務である。
ex.)借入金を弁済する債務、仕入業者や従業員が提供する財貨および用役に対する債務、
裁判所が課す損傷または罰金による債務、税金の債務
iv. 衡平法(equity)上の債務(obligation)および推定(constructive)上の債務(obligation)の解釈
(1). 衡平法(equity)の意義 資料2参照
(2). 衡平法(equity)上の債務(obligation)
(a). 不文法または制定法から生ずるものではなく、倫理的または道徳的制約から生ずるも
のである。言葉をかえていえば、衡平法上の債務は、他の実体に対して、通常の良心
や公正の感覚からみて、公平、正当、妥当であるとみなされる行為をなすという義務
から生ずる。(7)
ex.)他になんらの供給源(市場)を持たない消費者に対して、製品を供給するというよ
うな場合がこれにあたる。
v. 推定(constructive)上の債務(obligation)の解釈
(1). constructiveの意義
(a). 事実とは異なっているが、法律上そうであるとされること。従って、当事者の意思
とは関係なしに、ある法的効果が認められることになる。(8)
(b). 他の実体との契約によって結ばれたり(契約)、政府によって課されたり(規制)
するというのではなく、特定の状態の事実から生み出され、推定され、解釈される
もの。(9)
ex .) 年末特別賞与を従業員に支払うという契約上の義務が付されていなかったとしても、
また、そのようにするという企業の方針が公表されていなかったとしても事実とし
て毎年継続して従業員に支払っているということであれば、その支払について契約
がなくとも債務が存在していることになる。(10)
ク. 特徴点
(a). 衡平法上または推定による債務および法定において強制力を有している債務を明確に
区別することは困難
(b). 衡平法上の債務または推定による債務と債務のない状態を明確に区別することは困難
(c). 「衡平法上の債務または推定による債務を狭く解釈しすぎると、現実に存在する実体
の重要な債務を除外することになりがちであるし、衡平法上の債務または推定による
債務を広く解釈しすぎると、負債の本質的な特徴を欠く項目を含めることになり、定
義を実質的に価値のないものにする。」(11)
4. 発生の可能性が高い(probable)の解釈
a. FASBによる定義
i. 「probableという用語は、通常の一般的な意味で使われており、特定の会計上のまたは専門
的意味で使われているのではない。ここでprobableとは確実ではなく、立証もされていな いけれども、利用可能な証拠または論理に基づいて合理的に期待または確信されるという 意味である。定義へそれを加えた意味は、事業及び経済的活動は、その結果がほとんど確 実なことはないという不確実性によって特徴づけられる環境において行われているという ことを認めているということである。」(12)
(注)
(1) Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting
Concepts No.6: Element of Financial Statements,
December 1985, Par.35
(2) Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting
Concepts No.6: Element of Financial Statements,
December 1985, (平松 一夫・広瀬 義州訳「FASB財務会計の諸 概念(改訂新
版)」中央経済社、1994年、148頁)
(3) 平松 一夫・広瀬 義州訳、前掲書、376頁
(4) 同上、同書、377頁
(5) 同上、同書、382頁
(6) Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting
Concepts No.6: Element of Financial Statements, December 1985,note14
(7) 宮沢 清「財務会計概念序説」白桃書房、230頁
(8) 田中英夫「英米法辞典」東京大学出版社、1994年、189頁
(9) 宮沢 清、前掲書、230頁
(10) 平松 一夫・広瀬 義州訳、前掲書、304頁
(11) 同上、同書、同頁
(12)Financial Accounting Standards Board, Statement of Financial Accounting
Concepts No.6: Element of Financial Statements, December 1985,note13
参考文献
広瀬義州「会計基準論」中央経済社、1995年
広瀬義州・平松一夫訳「FASB財務会計の諸概念(改訳新版)」中央経済社、1994年
田中英夫「英米法総論 上」東京大学出版社、1994年
田中英夫「英米法総論 下」東京大学出版社、1994年
J.St.G.カー著・徳賀芳弘訳「負債の定義と認識」九州大学出版社、1989年
土方久「貸借対照表能力論 〜資産及び負債の定義と認識〜」税務経理協会、1995年
渡辺洋三「法とは何か」岩波新書、1990年
伊藤正己・加藤一郎「新版現代法学入門」有斐閣双書、1990年
伊藤正己・木下毅「[新版]アメリカ法入門」日本評論社、1995年
宮沢 清「財務会計概念序説」白桃書房
(資料1) コモン・ロー(common law)
エクイティと対比される用法で、中世以来国王のcommon-law court(コモン・ロー裁判所)が発展させてきた法分野。ノルマン・コンクエストにより成立したノルマン王朝のもので、統治にあたっては古来のイングランドの慣習を尊重するという建て前をとりながら、王国全体に関する事柄については王国の一般的慣習を適用するものであるとして、漸次形成された。(1)
(資料2) 衡平法(equity)
英米法の歴史的淵源のうちコモン・ローと並ぶ重要なもの。中世において国王裁判所が運用したコモン・ローでは救済が与えられないタイプの事件であっても、正義と衡平の見地からは当然自分に救済が与えられて然るべきであると考えた者は正義の源泉である国王にその旨の誓願を提出した。これらの誓願は国王の下で統治作用の全面に渡って作用していたcuria
regisの重要メンバーであったLord Chancellor (大法官)に送付されるのが通常となり、更に後には直接大法官に提出されるようになった。このような誓願を受けた大法官は事件ごとに裁量で救済を与えていたが、そのような例が増加すると、人々の間に、ある事実関係があれば大法官ないしそのもとにあるChancery(大法官府)に行けば救済を得られるという期待が生じる。こうしてエクイティはコモン・ローと並ぶ一つの独立の法体系と見られるようになった。そして18世紀にはエクイティも コモン・ローと同じように先例を尊重して裁判するものであり、その技術性に於いてもコモン・ローと変わりないものになっていったとされる。エクイティの分野として発達したものとしては、trust(信託)、specific
performance(特定履行)、injunction(差止命令)などがある。
イギリスでは長い間コモン・ローとエクイティは別々の裁判所で運用されてきた。アメリカでも一部の州はそのような制度をとっていた。また(裁判所がおなじときでも)手続法が異なっていた。しかし、イギリスでは1875年に、アメリカではニューヨーク州の1848年をはじめとして、「コモン・ローとエクイティの融合」(merger
of law and eqity)が行われた結果、現在ではほとんどの法域で裁判所は一つに統一され、更に多くの法域では、手続も一本化されている。しかし、英米法が長年に渡って二つの流れで発展してきたことは、現行法にもその濃い影を落としている。テクニカル・タームがコモン・ローとエクイティで違ったため、日本語では一つの言葉でよいものに、それぞれ別の言葉が用いられていることもあり、さらにlegal
interest(コモン・ロー上の財産権)、equitable interest(エクイティ上の財産権)、legal
remedy (コモン・ロー上の救済手段)、 equitable remedy(エクイティ上の救済手段)等の表現を用いて法の準則が説明される事も少なくない。(2)
(注)
(1) 田中英夫「英米法辞典」東京大学出版社、1994年、165頁
(2) 同上、同書、302-303頁