財務会計概念ステートメント草案
会計測定におけるキャッシュ・フロー情報の利用   

発表日 1997年10月6日
                          発表者 市川克也
ハイライト

ほとんどの会計測定において、現金受払額、現在取替原価又は現在市場価値のように市場で決定される客観的な価額が用いられる。しかし、会計専門家は、時として資産又は負債を測定する基礎として見積将来キャッシュ・フローを用いなければならない場合がある。このステートメントは、将来キャッシュフローを用いるフレームワークを会計測定の基礎として提示するものである。特に、将来キャッシュ・フローの金額、時期、又はその双方が不確実であるときに割引現在価値を利用するにあたっての一般原則を示すものである。そしてまた、会計測定において割引現在価値を用いる目的についての共通の理解を示すものである。

FASBは本ステートメントにおいて、測定における問題に限定し、認識の問題は取り扱わないことにした。また、FASBはフレッシュ・スタート法が相応しいケースを特定しないことにした。FASBは、ある特定の状況によりフレッシュ・スタート法が求められるか、又はプロジェクトごとに寄せられた他の会計処理方法が求められるのか、ということを決定していきたいと考えている。

会計測定において割引現在価値を用いる目的は、可能な限り見積将来キャッシュ・フローにおける経済的差異を把握することにある。割引現在価値を用いなければ、明日払うべき1,000ドルと10年後に支払うべき1,000ドルのキャッシュ・フローが同じであるかのように見える。割引現在価値によって、同じと思われるキャッシュ・フローの割引現在価値に基づく測定は、割り引かれていないキャッシュ・フローの合計額の基づく測定よりも、より目的適合性を有した情報を提供するのである。

財務報告において、目的適合性を有する情報を提供するためには、割引現在価値が資産又は負債の客観的な測定属性とされていなくてはならない。本ステートメントは、そのような必要性を満たす2つの状況を明らかにしている。つまり、原初認識における会計測定又はフレッシュ・スタート法による会計測定を行う場合、割引現在価値計算は、公正価値を見積もるため、もしくはその企業実体に特有の測定を行うために用いられるであろうということである。

- 資産(又は負債)の公正価値とは、競売や清算以外の独立第三者間の取引において、当該資産(又は負債)が購入(又は債務の負担)又は販売(又は決済)されるであろう価額である。

- 企業実体に特有の測定とは、企業実体がその項目の利用(又は決済)及び経済的耐用年数経過後の処分を通じて実現(又は支払)されると期待される将来キャッシュ・フローの割引現在価値のことである。概念的には、その企業実体に特有の価値とは、その企業実体の見積将来キャッシュ・フローに関して、独立第三者が企業実体と等しい情報と仮定を有する場合、独立第三者が取引に応ずるであろう価額である。すなわち、企業実体に特有の価値とは、その企業実体によって期待されるキャッシュ・フローを市場が評価した価額である。企業実体に特有の測定に際して用いられる仮定とは、企業実体による資産の利用又は負債の弁済の見込み、及びその利用又は弁済における企業実体が有する能力を反映していることである。これは、使用価値あるいは企業にとっての価値と言われる。

割引現在価値を用いる会計測定は、見積キャッシュ・フローに内在する不確実性を反映していなければならない。そうでなければ、異なるリスクの項目が同様に表示されてしまうことになるからである。本ステートメントは、資産又は負債の測定における見積将来キャッシュ・フローの金額、時期についての不確実性の影響を記述している。不確実性の種類及び金額の相違は、全ての資産及び負債の公正価値に反映されており、本ステートメントはその原則を企業実体に特有の測定にも拡張している。

割引現在価値を会計へ適用する際に、典型的には単一の見積キャッシュ・フローと単一の利子率を用いてきた。本ステートメントでは期待キャッシュ・フロー・アプローチを提案するが、これは起こりうる見積キャッシュ・フローの範囲とそれぞれの可能性についての明確な仮定に焦点を会わせた伝統的アプローチとは異なっている。対照的に、伝統的アプローチでは、利子率の選択において、不確実性を暗黙のうちに取り扱っている。起こりうる結果について幅を持たせて織り込んでいるので期待キャッシュ・フロー・アプローチの下ではキャッシュ・フローの時期が不確実であっても割引現在価値計算を用いることができるのである。

将来キャッシュ・フロー及び利子率を見積もるために用いられる手法は、当該資産を取り巻く環境に依存し、従って個々の状況に応じることになるであろう。本ステートメントでは、会計測定に割引現在価値計算を適用するに際して4つの一般原則の概要を説明するものである。

- 見積キャッシュ・フロー及び利子率は、公正な現金取引における資産又は資産群を取得するか否かを決定する際に考慮されるであろう全ての将来事象と不確実性についての仮定をできるかぎり反映していなければならない。

- 利子率は見積キャッシュ・フローに内在する仮定と一致した仮定を反映していなければならない。

- 見積キャッシュ・フロー及び利子率は偏向、又は当該資産又は負債とは無関係の要因から影響を受けてはならない。

- 見積キャッシュ・フロー及び利子率は、単一の最小値又は最大値ではなく、起こり得るキャッシュ・フローの範囲を反映していなければならない。

負債の測定は資産の測定とは異なった問題を含んでいるが、それは異なった測定目的が存在する可能性があるということである。本ステートメントでは、負債についての3つの測定目的を識別している。

- 資産としての公正価値 - 他の企業実体が一般的な取引において資産として受け取る場合に、第三 者に支払わなければならない金額。

- 弁済にあたっての公正価値 - 現在の取引から生じる負債を仮定する際に、その企業実体が第三者                 に支払わなければならない金額。

- 企業実体による弁済の価値 - その企業実体が当該債務をその見込まれる期間に渡って返済するの に支払うと見込まれる額(その企業実体に特有の負債の測定)。

本ステートメントは、もし存在するならば典型的に償却における利息法が考慮されなければならないと主張される要因を示している。それは、またこのアモチゼーション法を実行する際に考慮されなければならない要因についても示されている。

このステートメントは、フレッシュ・スタート法による測定が望ましい状況については述べていないが、将来キャッシュ・フローの見積額及び時期の変動を捉える会計については言及している。仮に見積キャッシュ・フローの時期及び金額が変化したのにその項目が再測定されなければ、利息法は、見積将来キャッシュ・フローが更新され、本来の有効な利子率で割り引かれた現在価値で簿価を修正するキャッチ・アップ・アプローチに変更されなければならない。



1 ほとんどの会計測定では、現金受取額又は支払額、カレント・コスト、あるいは現在市場価額のように市場で決定され、観察しうる金額が用いられる。しかし、資産又は負債を測定する基礎として、会計専門家は見積将来キャッシュ・フローを用いなくてはならない場合が度々存在する。このようなキャッシュ・フローはほとんど将来の数期にまたがって発生するので、会計測定において割引現在価値を反映するべきであるのかどうか、又はこのキャッシュ・フローの合計額を現在価値に割り引かないべきかという議論が生じる。FASB及びFASB以前の設定主体は割引現在価値計算の手法を利用する範囲を拡大することに消極的であった。例えばAPBオピニオン第10号”総括意見一1996年”のパラグラフ6において会計原則審議会は次のように述べている。

本課題および財務会計一般に関する割引現在価値計算の幅広い側面について以後鋭意検討を続け、APBが本課題について一定の結論に達するまで、本オピニオンの公開日(1996年9月26日)より以前に完了した取引に関して、この日に適用された会計処理を除き、繰延税金は割引を基礎にして報告されてはならない。

2 1988年10月、FASBは会計測定における現在価値の幅広い側面について検討するプロジェクトを開始した。APBオピニオン10号に続くいくつかの公式見解において、割引現在価値計算の利用がみられるが、その適用にはかなりの幅があった。割引現在価値計算を利用する公式見解がある一方、これを利用しないものもあった。FASBは、このプロジェクトに加え割引現在価値が会計測定方法として妥当であるのはどのような場合であり、また、どのように割引現在価値が用いられるべきかについて、より適切な解釈を検討することに努めた。

3 1990年12月にFASBは討議資料”割引現在価値に基づく会計測定”を公表した。この討議資料は、このプロジェクトに対する3つのアプローチを明らかにした。

a.更なる手続は必要がないことを定める。
b・新たな公式見解又は公式見解の修正が必要な特定の領域を確認する。
c.新たなFASB財務会計概念ステートメントを作る。

4 FASBは、1990年12月から1996年12月にかけて22通の財務会計基準ステートメントを公表した。そのうちの13のステートメントは認識及び測定の問題を扱い、更に10のステートメントは割引現在価値計算の利用について扱っている。概念ステートメント第5号”営利企業の財務諸表における認識と測定”における測定属性の記述は、会計測定にあたり割引現在価値をいかなる場合にどのようにして用いるかを決定するには不十分であると当審議会は考えている。

5 概念ステートメント第5号のパラグラフ67は財務諸表で用いられる5つの測定属性を説明している。

a・歴史的原価(実際現金受領額)
b.現在原価
c.現在市場価値
d.正味実現可能(決済)価額
e.将来のキャッシュ・フローの現在(または割引)価値


6 概念ステートメント第5号でのこれらの属性の中の3つ(現在原価、現在市場価値、および正味実現可能価額)は原初認識及び以後の会計期間でのフレッシュ・スタート法による測定に焦点を合わせている。歴史的原価に関する議論は、原初認識、およびその後の減価あるいは原価配分の測定に焦点を合わせている。割引現在価値の属性に関する議論はアモチゼーションの利息法に焦点を合わせているが、概念ステートメント第5号では原初認識およびフレッシュ・スタート法による測定に際しての割引現在価値の利用については扱っていない。


7 1996年2月にFASBはスペシャルレポート”割引現在価値を基礎とする会計測定についてのFASBプロジェクトーその審議と手法の検討’を公表した。スペシャルレポートにおいて以下のものが検討されている。

a. 討議資料及びその後のFASBの審議に対する反応。
b. FASBが他のプロジェクトで割引現在価値をどのように扱ったかについて。
c. 期待キャッシュ・フローアプローチを用いる割引現在価値の問題について検討するための新たな手法。
d. アモチゼーションの利息法によって引き起こされる問題。

8 他の国の基準設定機関においても、見積将来キャッシュ・フロー及び割引現在価値による情報の利用を中心とする測定問題が吟味されている。1997年4月にイギリスの会計基準審議会はワーキングペーパー”財務報告における割引現在価値計算”を公表した。オーストラリア、カナダ、イギリス、国際会計基準委員会、および合衆国の基準設定者からなるワーキンググループは数次にわたり割引現在価値の問題を討議してきた。国際会計基準委員会では割引現在価値の問題を含むいくつかの論点を審議している。しかしながら、FASBは財務会計上の測定における割引現在価値計算の利用の目的と概念的基盤をその概念フレームワークに取り込んだ会計基準設定機関がないことを認識している。

9 本ステートメントは会計測定の基礎として将来キャッシュ・フローを用いるためのフレームワークを提示する。それは以下の通りである。

a.特に将来キャッシュ・フローの金額、時期、又はその双方が不確実である場合において、割引現在価値の利用   を規定する一般原則を提示する。
b.会計測定における割引現在価値の目的、特に「公正価値」及び「企業実体に特有の会計測定」における見積も りに関する共通の合意を提示する。

10 FASBは本ステートメントを測定に関する問題に限定し、認識に関する問題については言及しないことを定めた。概念ステートメント第5号パラグラフ6では認識を次のように定義している。

認識とは、ある項目を資産、負債、収益、費用またはこれらに類するものとして、企業の財務諸表に正式に記録するかまたは記載するプロセスである。認識は、ある項目を文字と数値の両方を用いて表現し、かつ、その項目の数値が、財務諸表の合計数値の一部に含められることをいう。資産または負債についていえば、その取得もしくは発生の記録のみならず、結果的に財務諸表から除かれることになる諸変動をはじめとして、その後の記録もこの認識に含められる。

11 認識と測定は明らかに関係がある。概念ステートメント第5号に従えば、資産または負債は、十分な信頼性をもって測定し得ないのであれば、財務諸表上で認識されてはならない。たとえば、償却分控除後の原価から公正価値へというような測定属性の変更は、認識の要素と測定の要素を持つ。あるケースでは測定が簿価の変動を認識するかどうかを決定するし、また新たな簿価の基礎を提供する。例えば、原価時値比較低価法がこの例にあたる。しかし、認識及び測定属性を規定する慣行が同一である必要性はない。例えばFASBステートメント第121号”固定資産の減価及び除却の会計”では現在価値に割引くことないキャッシュ・フローを基礎とする認識についての会計慣行が用いられている。この場合、固定資産の減価の測定は公正価値に基づいている。

12 FASBはまた、いかなる時がフレッシュ・スタート法による測定がどのような場合に適当であるのかを特定しないことも決めた。会計専門家は、資産の変動を既存の減価償却による会計処理の慣行の調整もしくはフレッシュ・スタート法によって認識・測定するかどうかという状況に直面することが度々ある。フレッシュスタート法による測定が勧められる事象及び環境は、状況によっては異なるものであって一概には言えず、見積将来キャッシュ・フローに関する情報は時として再評価の決定問題の一部である。FASBは、ある状況の元においてフレッシュ・スタート法による測定が求められるのか、又個々のプロジェクトの中で提案されたその他の会計方法が求められるのかという事を決定していきたいと考えている。

会計測定における現在価値

13 割引現在価値計算は、貨幣の時間価値を測定に取り入れる為に用いられる手法である。その最も単純な形では、割引現在価値計算は、企業実体が必要とする(あるいは他者が要求する)将来受け取る(支払う)であろう貨幣金額を捕捉するものである。現在価値の計算は、オプション価格モデルを含む最新の資産価格モデルの一つである。そして財務報告において、ある項目が見積将来キャッシュ・フローを用いて測定される時には必ず有用である。更に言えば、見積将来キャッシュ・フローの現在価値は、企業実体が現金で資産を取得する際に記録された歴史的原価を含め、全ての市場価格に暗に示されているものである。このような関係は貸付金や社債といった金融資産に適用される場合には非常にはっきりしているが、しかしこの関係は財務諸表上に認識される全ての資産にも同様に当てはまるのである。多くの資産は直接キャッシュ・フローをもたらさないが、資産によって表現される潜在的用役又は将来の経済的便益は、最終的に企業に純キャッシュ・フローをもたらすことになる。


14 会計測定において割引現在価値を用いる目的は、見積将来キャッシュ・フロー相互の経済的差異を可能な限り捕捉することである。例えば、以下に示す4つの資産はそれぞれ$1,000が現在価値に割り引かれることなく測定されたものである。

a. 一日で満期となるリスクのない$1,000のキャッシュ・フロー 注2
b.10年間で満期となるリスクのない$1,000のキャッシュ・フロー
c. 一日で満期となるリスクのある$1,000のキャッシュ・フロー
d.10年間で満期となるリスクのある$1,000のキャッシュ・フロー


15 合理的な企業実体であれば、上記の4つの資産のうちどれを所有したいかについて、無関心ではないであろう。なぜなら、割引現在価値は、一見同じに見えるかもしれない項目の違いをはっきりと区別するため、見積将来キャッシュ・フローの割引現在価値に基づく会計測定は、このキャッシュ・フローの合計金額を現在価値に割り引くことのない会計測定に比べ、より目的適合性の高い情報を提供するのである。


16 キャッシュ・フローと利子率を結び付けるのは、少なくともその最も広い意味において割引現在価値を計算するためである。しかしながら割引現在価値はそれ自体が目的ではない。単に場当たり的に、ある利子率をキャッシュ・フロー流列に適用したのでは、財務諸表の利用者に限られた情報しか提供しえず、さらには財務諸表利用者のための一助となるどころか、誤導を招きかねない。財務報告において目的適合性を有する情報を提供するためには、割引現在価値が資産又は負債の特定の観察しうる測定属性を表現しなければならない。FASBはこの要請を満たす二つの状況を確認した。つまり、原初認識時点における会計測定又はフレッシュ・スタート法による会計測定に用いられる場合、公正価値を見積もるため、もしくは企業実体に特有の会計測定を行うために割引現在価値計算が行われるであろうということである(パラグラフ40-48を参照のこと)。FASBは、個々のプロジェクトに基づき、キャッシュ・フローが資産または負債の測定の基礎として用いられる場合における二つの測定目的のうちの一つを確認したいと考える。本ステートメントは全ての割引現在価値による測定に共通する要素に焦点を合わせ、この要素がどのように公正価値や企業実体に特有の会計測定に用いられるかを明らかにする。

割引現在価値と市場価格

17 市場には多くの機能があるが、市場とは情報システムである。市場参加者は資産に価格をつけ、これによって、ある資産または負債のリスクとリターンを他の資産又は負債のリスクとリターンと区別するための一つの手段が提供される。換言すれば、市場価格メカニズムは、異なるものが同一のものとして、もしくは同一のものが異なるものとして見えないように保証することに役立つ(会計情報の質的特徴)。

18 仮に、ある資産又は負債が契約として定められたキャッシュ・フローと市場価格を有するならば、約定されたキャッシュ・フローの現在価値とその金額とを等しくする利子率が存在することになる。注3 市場利子率はある資産と他の資産とを区別し、インフレーション及び約定キャッシュ・フローに内在するリスクに関する市場のコンセンサスを反映する。しかし、資産のキャッシュ・フローは、金額、時期、又はその双方に関して当初の契約と相違する可能性が常に存在する。市場参加者は、その市場価格を受け入れるか拒否するかを決定するに際し、期待キャッシュ・フローに対しておのおの事前評価を行う。


不確実性とリスク

19 割引現在価値を用いる会計測定では、見積キャッシュ・フローに内在する不確実性とリスクが反映されなくてはならない。そうでなければリスクを異にする項目が同様に表されてしまうかも知れない。市場はリスクの存在する資産(例えば、格付けの低い社債)とリスクの無い資産(格付けの高い社債)とを区別し、各々からもたらされるキャッシュ・フローに価格をつける。不確実性やリスクに対するこのような調整を欠いた会計測定は、このような調整を施した測定よりも有用性に劣る情報しか提供できない。

20 会計測定に不確実性やリスクを反映させる目的は、リスクの存在する資産又は負債に対する市場の反応を可能な限り模倣することにある。資産と負債の市場価格は、キャッシュ・フローに関する市場の期待(それは契約上のキャッシュ・フローとは異なるかも知れないが)と期待キャッシュ・フローに内在するリスクに要求される価格を織り込んでいる。このような市場価格は、ある資産又は負債を他と区別するのに役立つ。これは、報告される資産金額を過小評価又は負債金額を過大評価するように意図的に仕組まれ、バイアスがかかった意図によって混乱させられてはならない。FASBは概念ステートメント第2号”会計情報の質的特徴”のパラグラフ96において以下のように述べている。

FASBは、経営成績を首尾一貫して過小表示しようとすれば、この経営成績に関する情報の信頼性および誠実性の問題を生じさせるおそれがあり、また長期的にみれば、おそらく経営成績を過小表示するという当初の目的を達成できないことになるであろうという点に注目している,その種の報告は、たとえ善意であるとしても、本ステートメントにおいて述べた望ましい特徴との整合性を欠くものである。他方、FASBは、例えば過度に楽観的な実現の見積りにおいてみられるような慎重さを欠く報告も、上述の場合と同様に、望ましい特徴との整合性を欠くということにも注目している。稼得利益の内訳要素を見積るさいの偏向は、過度に保守的であると否とを間わず、通常、損益の合計数値よりもむしろそれらの計上時点に影響を及ぼす。結果的に、過度に保守的であろうと、保守的でなかろうとのいずれにせよ、不当に過度な方法をとれば、一方の投資者グループをあたかも他方の投資者グループよりも有利または不利であるかのように誤導させることになるといえよう。

21 リスクに対する市場の調整がどのように資産又は負債の測定に影響するのかということについては、見積キャッシュ・フローに内在するリスクの本質に依存している。単純な受取手形は、債務不履行からくる損失の可能性を表現している。リスクに対する市場の調整に従えば、ある資産において債務不履行の可能性がないのであればその固定的なキャッシュ・フローの合計値よりもその測定値は小さい。これとは対照的に製品保証債務において企業は期待キャッシュ・アウトフローよりも高い額の支払の可能性に直面する。リスクに対する市場の調整は固定的なキャッシュ・アウトフローの合計値を持つ負債よりも大きな(あるいはそれよりも低い実効利子率のある)金額での測定を行うことになる。参加者がくじ引きを引くようにリスクを探っているのが市場なのである。このように市場では、参加者は期待外の儲けを期待してその資産の期待キャッシュ・フローよりも多く対価を支払う。このような者達が存在する一方、このような市場は、財務報告において遭遇するような状況としては、典型的なものではない。

資産の測定における不確実性とリスクの反映

22 例えば、Aが、一年後に$1,220で返済することに同意するBに対して、$1,000の貸し付けを行ったとしよう。年22%の利子率であれば、契約上の将来キャッシュ・フローの割引現在価値と貸付金額が等しくなる。恐らく、AはBに貸し付けている貨幣に含まれるリスクとつりあうのは、22%の利子率であると考えたのである。

23 この単純なAの貸付の説明では、もっと込み入った判断についてははっきりよく分からない。Aがどうして22%の率に落ち着いたかを示す以下の例で概括的に述べるように、受取手形の利子率はいくつかの要因によって成り立っている。注4

債務不履行のリスクのない投資にかかる利子率          5.00%
          
Aは債務不履行のリスクのない対象に$1,000
を投資して受け取る金額                  $1,050.00

AはBのような借り手に1,000貸し付けた

平均的に、Aは約10.8%でBの様な借り手が
債務不履行に陥るとみる                    (108)

平均的に、Aは返済をするであろう残りの借り手
見て、債務不履行に陥る借り手にまつわるコスト
をまかなわなければならない                   892

Aはもっと多くの借り手が債務不履行に陥る可能性と
Bの様な借り手に貸し付けるのに内在する不確実性を
受け入れることに対するプレミアムを反映させる為に
調整をおこなう                         (30)

Aはもしこの多くの貸付が返済されたら、少なくとも
リスクのないリターンが得られる様に利子率を決定する        862  貸付

貸金の返済から少なくともリスクのないリターンを
実現する為に、リスクを調整した後にAは全ての借り手に
この率(862 X 1.2181=1,050)を課さなければならない      21.81%

四捨五入                            22.00%


24 この例ではある貸付金額に対して不確実性とリスクがどのように影響を与えるかを説明する為に、1,000の貸付のポートフォリオを用いた。ここでは借り手が債務不履行に陥るおそれのあるおそれ(不確実性)が存在する。この不確実性はこの例では108の貸付金の調整によって表現された。貸し手は借り手それぞれが貸付金を返済することを期待するのだが、しかし貸し手は一部の借り手が債務不履行に陥るであろうことを了解しているのである。貸し手は貸付金から得られるキャッシュ・フローが債務不履行による損失見込額をまかなえるようにそれぞれの貸付額を調整する。しかし、貸し手は損失見込みに対して調整を施すことを中止するわけにはいかない。貸し手は借り手が債務不履行に陥るであろうと見込んだ数よりも多くなってしまうリスクが常に存在するのである。つまり、貸し手は平均的な債務不履行発生率の見込みを誤っているかもしれないし、代表的ではないポートフォリオを組んでしまったかもしれないのである。合理的な貸し手であれば、見込額を超えた債務不履行のリスクの想定をすることによってその対価を求めるものである。例示では、企業実体は30の貸付金の調整によって表現されるリスクを想定し、これに負担させている。観察しうる市場利子率(22%の利息)は将来の債務不履行に関する不確実性と想定されるリスクに対する負担の両方を、この例示では明示的に説明したものの、暗黙のうちに反映しているのである。

25 会計測定において、リスクにみあう利子率によってキャッシュ・フローを現在価値に割り引くことによって、もしくはキャッシュ・フローを修正し、これを安全資産の利子率で現在価値に割り引くことによって、不確実性とリスクをこれに反映することができる。上記の双方の手法は同じ目的を有している。キャッシュ・フローの金額と時期が契約によって定められている場合には、適切な利子率を容易に見積ることができるだろう。しかし、キャッシュ・フローの金額と時期が契約によって定められていない場合、観察しうる利子率は利用できないかもしれない。このようなケースでは見積キャッシュ・フローを修正する方法が、同じ目的を達成するにはより良い方法である。

26 以下の例は、不確実性とリスクを反映するための異なる手法が、先に示した貸付金に関して、いかにして当初の同額の貸付金の会計測定に到達するのかを示す。

貸付金額                   $1,000.00
契約上のキャッシュ・フロー          $1,220.00
契約利率で現在価値に割引く           22.00%
                       $1,000.00

リスクプレミアム(30)での調整後
貸付金の返済見込み(892)             862
契約上のキャッシュ・フローの時        $1,220.00

期待キャッシュ,フローと同額(貸付金べース) $1,051.64
安全資産利子率で現在価値に割り引く        5.00%
誤差修正                    (1.56)

                       $1,000.00


負債の測定における不確実性とリスクの反映

27 不確実性とリスクはそれらが資産の測定に影響を与えたのと同様に、多くの負債の測定に影響を与える。例えば、BがAに支払わなければならない債務の様に、固定金額の支払債務は、まだ論議したわけではないが、特別な測定問題をもたらさない。しかし、ある種の負債には固定的な契約上の支払い計画がなく、そしてそのため企業実体は見込み額を超過するキャッシュ・アウトフローが生じる恐れが生ずることになる。この種の負債には保険契約、製品保証、および年金債務が含まれる。

28 例えば、Wは製品の保証契約に対し、製品と分離して価格を付そうと考えていると想定してみる。Wはそれぞれの保証に対し26ドルの平均的な修繕費用を見積る。実際の費用は最低でおのおの5ドル、最高でおのおの75ドルであるかもしれない。Wはその保証に24.76ドル(見込み修繕費の割引現在価値)の価格をつけるだろうが、この価格ではWはその費用の回収を期待できるにすぎない。もしWがその保証に24.76ドル以下の価格をつけたなら、長い目で見れば、貨幣を失うことになるだろう。Wはその費用を回収し、また想定したリスクに対するプレミアムを得るためにより高い価格、つまり25.76ドルを要求しなくてはならない。以下の例は、この分析と割引現在価値の間の相互の影響を示す。この例は1,000ドルの保証契約を例にとり、全ての保証請求は期末に支払われると仮定する(貸付とは異なり、想定するリスクに対するチャージは負債の記録される金額を増加させ、有効利率を減少させることに注意を要する)。

安全資産に対する利子率           5.00%
Wの見込んだ平均修繕費用          $26,000
割引率5.00%の割引現在価値         $24,760

保証に内在するリスクを受け入れるため、
Wが要求するプレミアムを反映させるため
に行った調整                 1,000
保証の価格                 $25,760
有効利子率($25,760と$26,000の中)     0.93%


信頼性

29 現在価値による測定は、もし資産が契約においてキャッシュ・フローが決められており、市場価格を容易に決定できるのであれば困難ではない。もちろん、このような状況では通常、割引現在価値による測定は必要とされない。それ以外の状況では不完全な割引現在価値による測定と、時間価値とリスクを無視する、議論の余地あるとしてもより正確な金額の計算との選択に迫られる。

30 見積りに基づく測定は、測定がキャッシュ・フローの合計値を示すか、その割引現在価値を示すかという点で、本来的に不正確である。将来の見積りは通常ある程度誤りであったことが判明するし、また実際のキャッシュ・フローは見積りとは異なるのが判明する。ある論者は、現在価値に割引くことない測定は現在価値による測定よりも優れており、それはキャッシュ・フローの金額に焦点を合わせ、その他の経済要因を無視するならば、より首尾一貫性があり比較可能な金額を算出できるのだと主張してやまない。

31 FASBは長く、目的適合的でもなければ、信頼性あるものでもないのが会計情報の最高の質であると認識してきた。この2つは、互いにバランスがとれていなくてはならず、おのおのにおかれる比重は状況によって異なるであろう。しかしながら本プロジェクトでの作業によって、FASBは割引現在価値と現在価値に割引くことない測定との単純な選択は、あやまった二者択一をしばしばもたらすことを確信した。期待キャッシュ・フローの利用のような手法は、以前は適当ではないと考えられた会計測定に対し、割引現在価値の適用範囲を拡張する途を開くことができる。単純な仮定を行うことによって、現在価値に割引くことない測定よりも、十分に信頼性があり目的適合性に合致する割引現在価値による会計測定を可能にする。

32 現在価値による測定は、見積将来キャッシュ・フローの単純な合計よりも複雑である。会計専門家は将来キャッシュ・フローの金額と時期に関して異なった結論に至るかもしれないし、不確実性とリスクに対して適当な修正を行うかもしれない。その可能性は、現在価値に割引くことない測定が資産又は負債を、比較可能であるように表現するかもしれない可能性と均衡するに違いない。パラグラフ14で1,000ドルの現在価値に割引くことない4つの資産について述ベた。財務諸表の利用者は、これら4つの異なる資産を同じようにあらわす測定には全く満足できない。

期待キャッシュ・フロー

33 割引現在価値の会計への適用にあたっては、典型的にはある単一の見積キャッシュ・フローとある一つの利子率を用いてきた。このような場合、見積キャッシュ・フローは契約上の金額であるか、もしその金額が利用できないならば、最良の見積りあるいは最もありそうな金額である。その利子率は”リスクを織り込んだ率”である。実際、常に意識ではないけれども、このようなアプローチでは、ある利子率の契約は、単一の将来キャッシュ・フローの見積りに内在する全ての不確実性とリスクを反映できると仮定する。測定にあたってその他の結果の可能性及び影響は利子率に暗黙のうちに織り込まれていると仮定される。このアプローチは多くの単純な問題に対しては十分であるが、FASBは、その方法はもっと複雑な測定問題を分析するのには不十分であると考えている。

34 合衆国の会計専門家は通常、仮に契約によってキャッシュ・フローの時期および金額が決まっているのであれば、割引現在価値の利用を受け入れる。最終的なキャッシュ・フローの金額が不確実であったにしても、先の貸付金の説明で示したように、契約は伝統的なアプローチが要求する要素を提供する。しかしその一方、会計専門家は、見積将来キャッシュ・フローの時期が契約によって特定されていない場合に、割引現在価値計算を行うことにしばしば消極的である。このような状況で会計専門家が消極的であるのは理解しうることである。割引現在価値に対する伝統的な会計の見方は、ある将来の期間にキャッシュ・フローを置き、これをある利子率で割引くというものである,しかし伝統的なアプローチにおける利子率は金額の不確実性は織り込むが時期の不確実性は織り込まない。もちろん、日々の市場において、会計専門家のこのような懸念は全く考慮されていないのであるが。市場は時期及び金額の双方において不確実なキャッシュ・フローに規則的に価格をつける。

35 FASBは期待キャッシュ・フロー・アプローチは多くの状況下で伝統的アプローチよりも優れていると考えている。期待キャッシュ・フロー・アプローチは4つの点で伝統的アプローチと異なる。

a.期待キャッシュ・フロー・アプローチは測定において用いられる仮定に関する明示的な基準を要請している。しかしこの一方で、伝統的アプローチは契約上のキャッシュ・フロー又はある最良のキャッシュ・フローの見積りを用い、その他の要素は暗黙のうちに利子率に反映されると仮定する。

b.期待キャッシュ・フロー・アプローチは、もっとも起こりそうなキャッシュ・フローのかわりに、可能性あるキャッシュ・フローに関する全ての期待を用いる。倒えば、キャッシュ・フローがそれぞれ10パーセント、60パーセント、30パーセントの可能性をもつ100ドル、200ドル又は300ドルであるとする。その期待キャッシュ・フローは220ドルである。期待キャッシュ・フローは最良の見積りという伝統的な考え方、つまりこの例での$200と異なるであろう。”平均的に、Aは約10.8%でBの様な借り手が債務不履行に陥る恐れがある”というパラグラフ23の貸付の例は期待キャッシュ・フローの考え方をより単純に利用したものである。

c.期待キャッシュ・フロー・アプローチは不確実性とリスクに関する明示的な基準を要請している。貸付の例で、Aは借り手の一部が債務不履行に陥るであろうと確信したが、10.8パーセントという期待値について確信したわけではない。このようなリスクを補償するために、Aは30の貸付を追加することで債務不履行の見込みを調整する。

d.期待キャッシュ・フロー・アプローチは、キャッシュ・フローの時期が不確実な時に割引現在価値計算を用いるのを容認する。例えば、1,000ドルのキャッシュ・フローがl年目、2年目、3年目にそれぞれ10パーセント、60パーセント、30パーセントの可能性で受領されるかもしれない。以下の例は、期待割引現在価値計算を示す。また、期待割引現在価値は、最良の見積りという伝統的な考え方とは異なっており、この例では907.03ドル(60パーセントの可能性)である。


債務不履行のリスクのない投資に対する利子率              5.00%
5%での1年目の$1,000の割引現在価値           $952.36
確率                           10.00%  $95.24
5%での2年目の$1,000の割引現在価値           $907.03
確率                            60.00%  544.22
5%での3年目の$1,000の割引現在価値           $863.84
確率                            30.00%  259.15
期待割引現在価値                           $898.61


36 多くの会計専門家は期待キャッシュ・フロー・アプローチを日常的には用いないが、期待キャッシュ・フロー・アプローチは年金、その他の功績報賞退職金、およびある種の保険債務のような一部の会計測定において用いられる手法に内在するものである。これらの手法は近年認められたものであるが、貸付金の減損及び固定資産の減価を含め、ある会計測定においては未だ要求されていないものもある。

37 ある種の手法のように、期待キャッシュ・フロー・アプローチはある状況においては他の状況よりもより有用である。しかし、FASBは期待キャッシュ・フロー・アプローチが、仮にその項目にかなりの将来キャッシュ・フローがあり、又は、もし一定の範囲内に確率が表現されているのならば、ある1種類の資産又は負債でさえも検討する際には有用であると考えている。また、FASBは期待キャッシュ・フロー・アプローチが比較的少額の資産群又は負債群を検討するのに際してでさえ有用であると考えている。

38 確率を用いるのは、期待キャッシュ・フロー・アプローチの本質的要素であると同時に一部の会計専門家は苦心するかもしれない要素である,彼らは、確率を主観性の高い見積りに対して割り当てることが、実際に存在するよりも高度な正確さを出すのかどうか疑問に感じるかも知れない。

39 期待キャッシュ・フローを出すために用いられる確率は、割引現在価値計算の中の他の要素と同様に、正確かつ慎重に見積られるか、あるいは正確性に劣り、主観的なものであった。しかしながら、このような確率の事前評価は、現に伝統的アプローチの中に、単一の資産あるいは負債に対して適用する場合においてもみられるところである。パラグラフ23の例は、どのようにして22パーセントの利子率がリスクを織り込むのか、そしてリスク調整のなされた期待キャッシュ・フローはどのようにして同様の仮定と確率を反映するのかということを示すものである。期待キャッシュ・フロー・アプローチは会計測定の観点から見て、このような仮定を明確にするという利点がある。そうすることで測定プロセスをより理解しうるものとし、不適切な仮定を明らかにするのに役立つ。

公正価値と企業実体に特有の価値

40 キャッシュ・フロー情報に基づく測定において、見積りと仮定が用いられなければならないが、企業実体による見積りと仮定は、資産又は負債の公正価値に反映されるそれとは異なるかもしれない。企業実体に特有の測定においては、企業実体による見積りと仮定が用いられるか、そこでは企業実体に特有の価値を見積るために、実現したもしくは後に支払われるキャッシュ・フローに焦点があわされる。対照的に、公正価値を見積るためになされる測定では、自発的な取引主体が存在し、同じ価格が市場において現在明らかにされ、取引可能であると仮定されている。同様の手法は、公正価値や実体に特有の価値を見積るためが用いられる時に適用される。両者の相違点は、見積キャッシュ・フローに対する仮定を、市場が作り出すのか、それとも当該企業実体が作り出すのかであるのかという点にある。

41 論者は、ある状況で、実体に特有の測定が公正価値を上回ることを許容する理由をいくつか挙げている。

a.特定の資産あるいは負債の市場価値に関する情報は利用することができないかもしれない。
b.現在の市場で取引が僅かしか行われておらず、仮に大きくて活発な市場であれば決定されるであろう公正価値を 正確に反映できないかもしれない。
c.企業実体がキャッシュ・フローに関して、市場で利用できる情報よりも、優れた又は異なる情報を持つかもしれ ない。
d.企業実体が他の市場参加者が持たない特殊な能力や技術を持つかもしれない。
e.個々の企業実体が、資産の利用または負債の弁済に関して、市場が最も有効な利用あるいは最も効率的な弁済で あると考える方法とは異なる方法を計画している(あるいは負わされている)かもしれないから。

42 FASBはある状況の下では企業実体に特有の測定が適切であること、そして、公正価値が要請されるのか、それとも企業実体に特有の測定が要請されるのかということは個々のプロジェクトごとに検討されることを結論づけている。しかし、会計測定における割引現在価値の役割に関するFASBの結論によれば、企業実体に特有の測定に対しても割引現在価値が用いられるべきではないとする理由はない。企業実体に特有の測定を支持する議論において、測定が貨幣の時間的価値、又はある特有の資産又は負債に内在するリスクを無視すべきだと示唆するものはない。合理的な企業実体ならば、現在価値に割り引いてない合計金額として、リスクのない将来キャッシュ・フローを獲得しないであろう。企業実体に特有の測定を支持する議論において、測定が見積キャッシュ・フローに内在するリスクを無視すべきであると示唆するものはない。合理的な企業実体ならば、リスクの存在するキャッシュ・フローを同額のリスクのない将来キャッシュ・フローとして、その権利を獲得し、又はその債務を負うことはないであろう。

43 企業実体に特有の測定は、よく使用価値、又は企業実体にとっての価値といわれる。ある資産(又は負債)の企業実体に特有の測定は、企業実体がその使用(または弁済)し、最終的に経済的耐用年数経過後の除却を通じて実現する(又は支払う)と期待される将来キャッシュ・フローの割引現在価値である。当初においてFASBは、企業実体に特有の価値という概念を、その企業実体が、(a)現有の資産からその経済的耐用年数を通じて実現するキャッシュ・フロー、又は現存する負債をその返済期間にわたって弁済すること、及び(b)資産の対価として現金による支払を受けること、又は負債の弁済のために現金による支払いを行うこと、の両者は無関係であると説明した。資産や負債の企業実体に特有の価値は状況に依存しており、公正価値よりも大きかったり小さかったりするかもしれない。この概念を用いて、企業実体に特有の価値を決定するために、企業実体は見積キャッシュフロー、その変動性の事前評価、安全資産の利子率、及び見積キャッシュ・フローに内在するリスクに対し企業実体が要求する金額を用いるであろう。

44 会計専門家はキャッシュ・フローの見積りをすること、そして、見積り金額の変動性を事前評価するのになれている。殆どの会計専門家は、企業実体によるキャッシュ・フローの見積りは、パラグラフ41にあげたものも理由に含めて、市場価格に織り込まれている見積りとは異なるであろうと考えている。しかし、企業実体に特有のリスクを調整するという考え方は一般的ではない。不確実性に対し企業実体が要求する金額についての企業実体側の主張は、検証することが不可能なものである。FASBの一部には、概念に反対する一方で、企業実体に特有のリスクの調整は実行不可能であろうとの見解を表明したものもいた。

45 このような観点から、FASBは企業実体に特有の価値概念に、市場ベースでのリスクの調整を盛り込んだ。企業実体に特有の価値を決定するために、企業実体は見積キャッシュ・フロー、その変動性の事前評価、安全資産の利子率、及び見積キャッシュ・フローに内在するリスクに対し企業実体が要求する金額を用いるであろう。言い換えれば、企業価値に特有の価値とは、市場が評価する企業実体が期待するキャッシュ・フローの金額のことである。FASBは、市場は企業実体が有する情報又は手法を有していないために、企業実体が見積もるキャッシュ・フローに内在する不確実性とリスクに対して要求するであろう金額を決定するのは困難であると考えている。しかし、FASBは、ある場合において、公正価値を算定することを必要とする情報を入手することは、企業実体に特有の価値を算定することを必要とする情報を入手することと同じ程度に困難であるか、もしくは容易であるかも知れない、と結論づけた。


46 下記の表は、割引現在価値による測定の内容から、公正価値と企業実体に特有の測定との違いをまとめたものである。

公正価値

一般的な説明

自発的な主体間の現在取引において、資産(又は負債)が売却されうる(または弁済されうる)金額

キャッシュ・フローの仮定

資産の利用又は負債の弁済に対する期待を基礎とする市場の予想

リスクに対する調整

市場によるキャッシュ・フローの期待を適用するならば、市場が同様のリスクに対して要求するであろうキャッシュ・ フローに調整すること

企業実体に特有の価値

一般的な説明

企業実体の見積キャッシュ・フローに対して同じ情報と仮定を有する独立で自発的な主体が、取引に応じるであろ う金額

キャッシュ・フローの仮定

その企業実体が、その期待耐用年数におよぶ資産の利用、又は負債の弁済から期待するものであり、その利用また は弁済についての企業実体の所有者の能力を反映するもの

リスクに対する調整

企業実体による期待キャッシュ・フローを適用するならば、市場が同様のリスクに対して要求するであろうキャッ シュ・フローに調整すること

47 以下の例が、資産の公正価値と企業実体に特有の測定との違いを強調するのに役立つだろう。Q社は数年間に及びある不動産を所有している。そしてその不動産はボーリング場として利用されている。Q社の経営者は、市場においてその不動産は駐車場として利用された方がより良いと考えられているということを理解している。所轄税務当局は全ての財産税について、その財産が売却されるまでは、その上限を一定に定めていた。Q社が、この不動産を所有している限り、年間の財産税は50,000ドルである。しかし、新しい所有者に対しては財産税は年間250,000ドルになるであろう。仮に、Q社がキャッシュ・フロー情報を、公正価値を見積るために用いるとするならば、そこでの計算上の仮定は、駐車場として不動産を利用した場合に獲得されるキャッシュ・フロー、新しい所有者が支払うであろう年間の財産税、駐車場を経営する場合のキャッシュ・フローに内在するリスクに対する市場の要求額、及び安全資産に対する利子率を反映するであろう。仮にQ社が、キャッシュ・フロー情報を、企業実体に特有の価値を見積るために用いるとするならば、そこでの計算上の仮定は、ボーリング場として不動産を利用した場合にもたらされるキャッシュ・フロー、現在の水準の年間の財産税、ボーリング場を経営する場合のキャッシュ・フローに内在するリスクに対する市場の要求額、及び安全資産に対する利子率を反映するであろう。この例に見られるように、リスクに対する市場の要求額はキャッシュ・フロー、あるいはそのリスクに見合う利子率の中に織り込まれているであろう(パラグラフ22−26を参照のこと)。

48 キャッシュ・フローが不確実である場合の企業実体に特有の価値は、安全資産に対する利子率によって現在価値に割り引かれた期待キャッシュ・フローよりも多額であったり、同額であったりしてはならない。期待キャッシュ・フローに内在するリスクを反映する調整によって、企業実体に特有の価値はこの価額よりも低くなるであろう。同様に、キャッシュ・アウト・フローが不確実な負債の企業実体に特有の測定値は、安全資産に対する利子率で割り引かれた期待キャッシュ・フローよりも少額であったり、同額であったりしてはならない。期待キャッシュ・アウトフローに内在するリスクを反映する調整によって、企業実体に特有の価値はこの価額よりも増加するだろう。

原初測定及びフレッシュ・スタート法による測定

資産測定における現在価値

49 通常、資産はある取引における現金支払額、又は観察しうる市場価値のように、ある測定属性によって測定される。もし、観察しうる測定値が適当でなければ、又は、仮に測定の対象が企業実体に特有の価額を形成するならば、会計専門家はキャッシュ,フローに関する情報に注目することがしばしばある。先述のように、その割引現在価値として見積将来キャッシュ・フローを報告するならば、これらのキャッシュ・フローの合計金額を報告するよりも、目的適合性に合致する情報を提供することができる。

50 将来キャッシュ・フロー及び利子率を見積るために用いられる手法は、当該資産を巡る周囲の状況に依存しているため、一様ではないであろう。FASBは個々のプロジェクトにおいて、ある状況下で求められる仮定及び見積りに関する特別指針を提供するかもしれない。資産の測定における割引現在価値計算の適用を規定する一般原則は以下のとおりである。

a.見積キャッシュ・フロー及び利子率は、現金による公正な取引において、ある資産又は資産群を取得するかどう かを決定する際に考慮される全ての将来事象と不確実性に関する仮定ができる限り反映されなくてはならない。

b.利子率は、見積キャッシュ・フローに内在する仮定と首尾一貫した仮定を反映しなければならない。そうでなけ れば、ある仮定による影響が重なったり、もしくは無視されてしまうであろう。例えば、契約上のキャッシュ・ フローに対して標準的に適用された利子率は、将来の債務不履行の危険を反映するでろう。その利子率は既に将 来の債務不履行に対する仮定を反映しているのであるから、同じ利子率が期待キャッシュ・フローを現在価値に 割り引くために用いられてはならない。

c.見積キャッシュ・フロー及び利子率は、偏向や当該資産あるいは資産群とは無関係の要因から独立でなくてはな らない。例えば、ある資産の表面上の将来収益性を高めるために、見積純キャッシュ・フローを故意に控えめに するのは測定に偏向をもたらすことになる。

d.見積キャッシュ・フロー又は利子率は、考えられる最小値又は最大値というある単一の金額ではなくて、むしろ ある範囲の中のありうるものを反映しなくてはならない。

負債の測定における現在価値

51 パラグラフ49で挙げた一般原則は、資産と同様に負債にも適用される。しかし、負債の測定において、資産とは異なる測定目的があるという可能性も含め、資産の測定とは異なった問題がある。FASBは3つの負債の測定目的を確認している。

52 資産としての公正価値。ある負債の入帳金額は、他の企業実体が当該企業実体の負債を資産として保有しようとする価格である。例えば、貸付から得られる収入額は、貸し手が、将来キャッシュ・フローの借り手側の契約を資産として保有するために支払った価格である。同様に社債の公正価値はしばしば簿価とは異なるが、当該証券が市場において資産として取引される価格である。

53 弁済にあたっての公正価値。ある負債の入帳価額は、負債を負担するために第三者に対して支払わなくてはならない価額をあらわす。負債を負担する者は取引を承認しなくてはならないことが殆どであるので、第三者による負債の弁済は滅多にない。しかし、いくつかの会計公式見解において、公正価値の測定として、負債の弁済に注目している(FASBステートメント125号、「金融資産の売却と譲渡及び負債の消滅の会計」はこの一例である)。弁済における公正価値は現在の取引を予想する。それ故、弁済における公正価値を見積るために用いるキャッシュ・フローの仮定は、債務を負担するために要求するであろう価格を設定する際に、独立の第三者が想定する価額を反映しなくてはならない。不確実性を反映させるための調整は、第三者によるキャッシュ・フローの金額及び時期に対する潜在的な変動性の事前評価と首尾一貫しなければならない。

54 企業実体による弁済における価値。ある負債の入帳価額は、その企業実体が債務を弁済するに際して支払うと見込む金額を表す(負債の企業実体に特有の測定)。企業実体による弁済は、その債務が満期を過ぎて返済されることを想定している。そのため、想定キャッシュ・フローは、その企業実体が負担すると見込まれる金額を反映しなくてはならない。不確実性に対する調整は、その企業実体によるキャッシュ・フローの金額及び時期に対する潜在的な変動性の事前評価と首尾一貫しなければならない。

債務不履行と負債の測定

55 考慮される企業実体の信用度の程度は、測定によって表現される取引に依存すると考えられている。仮にその目的が、それを資産として所有する他者の負債の公正価値を見積ることならば、債務不履行のリスクに対する調整が常に必要である。企業実体の債務を資産として所有する者は、彼らが支払おうとする価格を決定する際に、債務不履行のリスクを織り込んでいる。このような価格を見積るためになされる測定も同様にして行われなくてはならない。

56 対照的に、企業実体の信用度は、第三者が企業実体の債務を負担するためにチャージするであろう価格に対して限定的な影響しか与えない。弁済における公正価値とは、その企業実体が、他者に対してその債務を負担するようすすめるために支払わなくてはならない資産(現金)の価値である。ひとたび、第三者がその債務を負担するならば、その企業実体の支払能力は無関係になる。同様に、企業実体のよる弁済の測定において、債務不履行に対するどのような調整も反映させてはならない。また、このような測定値は、その企業実体がその債務を弁済するに際し、支払うと見込む資産の価値を表す。企業実体の信用リスクによってこの金額が変更されることはない。

割引現在価値を用いる会計上の配分(利息法)

57 割引現在価値計算は、一括して「利息法」として知られる期間報告においても用いられる。ほとんどの会計専門家は、APBオピニオン21号、「受取手形及び支払手形に対する利息」で説明されるように、プレミアム又は割引の償却における利息法を熟知している。同様の手法は様々な状況で用いられており、償却における利息法の問題はいくつかのFASBのプロジェクトにおいて取り上げられてきた。FASBは引き続き、個々のプロジェクトにおいて、利息法を要求するかどうかを審議してゆきたいと考えている。利息法は、どんな資産又は負債にも適用できるのであるが、その利用は一般的に、以下に挙げる特徴の一つもしくはそれ以上を有する資産および負債に限定される。

a.資産又は負債を増加させる取引が、一般に借入および貸付であるとみなせること。
b.類似の資産又は負債の償却に対して利息法が適用されること。
c.一定の見積将来キャッシュ・フローが資産又は負債と緊密に関連づけられること。すなわち、資産又は負債が貨 幣性資産であるかまたは極めてそれに近いものであること。注7


58 全ての原価配分と同様に、利息法は任意規定である。つまり、利息法が他の方法よりも優れていることを証明できないということである。全ての原価配分と同様に、利息法を適用する場合、収益又は費用の配分に大きな影響を与えうる。特に、利息法では以下についての慎重な記述が要求される。

a.用いられるキャッシュ・フロー(契約上のキャッシュ・フロー、期待キャッシュ・フロー、あるいはその他の見 積り)
b.利子率の選択を規定する慣習(実効利率又はその他の利率)
c.その利率をどのように適用するか(継続的実効利率又は年利)
d.見積キャッシュ・フローの金額又は時期の変動に対応する手順

59 現在の公式見解は、パラグラフ57で概要を示した情報の範囲内で様々なものがあり、それはキャッシュ・フローと利子率の慣習の選択に関してかなり異なっている。しかし、ほとんどの状況において、利息法は契約上のキャッシュ・フローに基礎を置き、そのキャッシュ・フローが獲得される期間に渡る継続的な実効利率を仮定する。つまり、この方法は契約上のキャッシュ・フロー(期待キャッシュ・フローというよりは)を用い、資産又は負債の原初価格と約定キャッシュ・フローの現在価値とを等しくする単一の利率を基礎となる利子率にするということである。

60 利息法の説明には、見積キャッシュ・フローの変動に対応する手順が含まれる。実際のキャッシュ・フローは、期待よりも遅く発生したり早く発生したり、もしくは期待よりも多かったり少なかったりする。仮にその違いが無視されるなら、資産又は負債は全てのキャッシュ・フローが発生する前に償却されてしまうであろうし、また、残高が最後のキャッシュ・フローの後に残ってしまうかもしれない。これとは対照的に、市場利子率の変動は、固定金利の資産又は負債において、利率の変動がキャッシュ・フローを変更させないので、同様の問題をもたらさない。利息法は取得原価主義を基礎とし、そしてこの意味で、利子率の変動は、価格変動と同じである。変動金利のように、利子率の変動が見積キャッシュ・フローを変動させないかぎり、利子率の変動は償却に影響を与えない。

61 時期又は金額の双方におけるキャッシュ・フローの当初見積りの変更は、(a)利息法による償却の中で対応しうるし、又、(b)資産又は負債のフレッシュ・スタート法による測定にも反映しうる。パラグラフ12に示されるように、FASBはこの2つのアプローチの選択を行うための条件について言及しないことにした。仮に見積キャッシュ・フローの金額又は時期が変化し、その項目が再測定されないならば、利息法による償却計画は、新しいキャッシュ・フローの見積りを反映するように改められねばならない。FASBは以下のものを含め、見積キャッシュ・フローの変動を処理する様々な手法を用いてきた。

a.簿価と残存キャッシュ・フローを基礎として新たに実効利子率を再計算する予想アプローチ
b.修正見積キャッシュ・フローを当初の実効利子率で割引いた割引現在価値に簿価を調整するキャッチアップ・ア  プローチ
c.当初の簿価、現在までの実際キャッシュ・フロー、及び残存見積キャッシュ・フローを基礎として新しい実効利  子率を計算する遡及的アプローチ。簿価は、新しい実効利子率を用いて修正見積キャッシュ・フローを割引い  た割引現在価値に調整される。

62 キャッチアップ・アプローチは、利息法によって表現される割引現在価値との関係と最も一致していることから、キャッチアップ・アプローチは、見積キャッシュ・フローの変化を反映する他の方法よりも優れている。資産又は負債の入帳価額は、見積キャッシュ・フローに変化がない限り、見積将来キャッシュ・フローを当初の実効利子率で割引いた割引現在価値である。仮に見積の変更がキャッチアップ・アプローチを通じて影響するとしても、同一の資産又は負債の測定の基礎は、見積りの変更の前と後で同一になるであろう(見積キャッシュ・フローが当初の実効利子率で割引現在価値に割引かれる)。変更を加えるアプローチは見積りキャッシュ・フローの変更の影響を暖味にし、結果として、有用性と目的適合性に欠ける情報を作り出すことになる。

その他の会計測定において利用されているキャッシュ・フロー及び利子率概念と本ステートメントにおけるキャッシュ・フローおよび利子率概念の比較

63 現行の公式見解において用いられる利子率の会計慣行とキャッシュ・フローの会計慣行にはさまざまなものがあるということが、割引現在価値プロジェクトを審議に加えるようになった要因の一つである。FASB公開草案に対して寄せられる意見は、割引現在価値に対して様々なアプローチを提案する場合がしばしばある。割引現在価値の会計への適用には、契約上のキャッシュ・フローに対して適用する利子率が、又は契約がない場合においては、最もありそうな将来キャッシュ・フローの見積り、又は最善の将来キャッシュ・フローの見積りに対して伝統的に焦点が合わされてきた。そこで強調されることは、利子率は、見積キャッシュ・フローに内在する不確実性とリスクの全てを捉えていると仮定されるという伝統的な割引現在価値見方と一致している。FASBに寄せられる意見では、ある利子率が(a)特定の資産又は負債に帰属するキャッシュ・フローの不確実性およびリスク、そして(b)測定の目的、についての考察に至っていない。本節は、本ステートメントにおける割引現在価値概念について精緻な説明を加え、キャッシュ・フローと利子率についての概念と、現存の公式見解に見られるキャッシュ・フローと利子率についての概念とを比較する。

64 公式見解において、ほとんど又は全く付加的な指針を示さず、単に”適切な利率’について定めているものが多数ある。しかし、適切な利子率は、なんらの条件もなしに存在するものではない。まず、(a)見積キャッシュ・フローの本質的性格、(b)キャッシュ・フローを見積る際に用いられる仮定、および(c)測定の目的、についての理解がなければ、適切な利子率を明らかにすることはできない。多くのケースにおいて測定目的は、公式見解で言及されるトピックから明らかになっている。例えば、APBオピニオン第16号、「企業結合」においてパーチェス法として説明される企業結合に関連して生じる問題において、利子率について言及されている。

借入利子率の増加

65 いくつかの公式見解において、企業実体の”借入利率の増加”について明記している。ある状況において、借入利子率の増加は、本ステートメントにおける割引現在価値概念と首尾一貫しているかもしれない。仮にその利率が負債の公正価値を決定するために契約上のキャッシュ・フローに適用されるならば、そして、もしその負債の性質が、企業実体が借入の増加によって負担する負債と同様のものであるならば、所有者の資産である企業実体の負債の公正価値と近似するだろう(パラグラフ52を参照されたい)。

66 企業実体の借入利子率の増加、又はその他の資本コストの増加を測定することは契約上のキャッシュ・フローが存在しない負債の測定としては適切ではない。不確実なキャッシュ・アウト・フローを伴う負債は、慣習上、借入れには存在せず、借入利率の増大に反映されないリスクにその企業実体をさらすことになる。更に言えば、不確実なキャッシュ・フローを伴う負債は、弁済にあたっての公正価値、あるいは企業実体による弁済価値で測定されうるものである。この測定はどちらも、借入利率の中で具体化される企業実体の債務不履行のリスクを除外し、借入利率の増加の要因ではない、見込みを上回るキャッシュ・フローの可能性を内包するものである。

67 どちらも資産の測定にふさわしい借入利子率ではない。企業実体の特定の資産の中に具体化される不確実性及びリスクはたいてい、企業実体の債務を資産として保有するものが仮定するリスクとは関係がない。負債の認識と、現在価値を用いた負債の測定が、同様の金額で測定された資産の認識に伴うケースがある。しかしながら、この状況下で現在価値は負債の測定のために用いられる。資産の記録倍額は資産の取得のための犠性を反映する。

総資産利益率

68 いくつかの公式見解において、企業実体が投資資産から得られると期待する期待利子率が負債の測定に用いられると明記している。負債を測定するために資産ベースの利率又は期待収益率を用いる慣行は、主として利益の認識パターンを得るため、又は、資産と負債の簿価との対照を反映するために仕組まれるものである。しかし、実在又は仮定上の資産のポートフォリオの期待収益率は負債の見積キャッシュ・フローに内在する不確実性およびリスクとは関係がないことが通常である。負債の測定に用いられる場合、資産べースの利益率又は期待収益率は、本ステートメントで説明される割引現在価値概念と首尾一貫しない。

69 ある論者は、あるものの変化が他方を相殺するように特定の資産からもたらされるキャッシュ・フローは負債のキャッシュ・フロー反映するであろうと主張している。金融派生商品の中にはこのような性質を有するものがあり、FASBは現在において金融派生商品を金融商品に関するFASBのプロジェクトの一部として取り上げている。しかし、負債の測定に期待利益率を用いた場合、資産に内在する投資リスクおよび負債に内在する不確実性とリスクの両方を暖味にすることになる。

70 ある論者は、仮に法律又は契約による積立基金が存在するならば、総資産利益率が適切であると主張している。つまり、積立基金が負債を特定の資産群、又は当該資産からもたらされるリターンに関連づけるものであるからである。この考え方は本ステートメントにおける現在価値概念と首尾一貫しない。負債によりその企業実体が特定の資産を引き渡す義務を負わない限り、資産とキャッシュ・フローの価値に、必ず債務にあてはまるという関係は存在しない。公式見解は、ある限られた状況下(年金の会計の様に)で、貸借対照表において積み立て資産を負債と均衡させるのを許容してきたが、そうであっても、この表示慣行が測定概念の基礎を変更させるというものではない。

弁済時の実効利子率

71 ある公式見解において、効果的に債務を弁済しうる利子率を、特定の種類の資産に言及することによって特定した。弁済時における実効利子率は、観察しうる市場利子率が利用できない場合、又はキャッシュ・フローに内在するリスクに対する適切な調整額が決定できない場合においてしばしば用いられる。それらは実務上の解決策(しかもそれらは現在価値に割引くことない測定に比べて明らかに優れている)を表すものの、本ステートメントで説明される現在価値概念とは首尾一貫しない。

暗黙の相殺

72 ある論者は、見積将来キャッシュ・フローに影響を与える要素は互いに相殺されるため、割引現在価値は不要であると主張する。彼らによれば、現在価値に割り引いていない将来キャッシュ・フローの合計額は、これらの相殺要因を暗黙のうち捕捉しているのである。貨幣の時間価値、インフレーション、及び不確実性は相互に影響しあうものである。しかし、これらは(同時発生を除いて)、互いに取り消しうるものではない。例えば、今後10年間で返済する1ドルのキャッシュ・フローは物価水準にスライドすれば、現在1ドルの価値をもたない。修正金額はインフレーションのコストを反映するが、経済的便益の喪失の対価を示すものではない。市場参加者は、彼らの期待値からインフレーションの影響額を除去した実質利子率(インフレーションの影響のないもの)を要求する。同様に、リスクはある取引において与えられる(価格が与えられる)であろう。


注1 用語集に出て来る語は、初出の時に太字で示す。
注2 本ステートメントではリスクならびに不確実性という用語を、経済学、財政学、統計学といった分野に見られる特定の意味としてではなくむしろ一級的な意味で用いている。リスクは、減損、損害、損失の機会をさす。不確実性とは単に知られるものあるいは一部に知られるものをさすのではなく、疑わしいものあるいは未定のものである。
注3 利子率は会計の公式見解の中で、約定キャッシュ・フローにおける内部利益率、計算利子率、有効利子率として参照されることがしばしばある。
注4 単純化の為に、本側はすべて全額が債務不履行になったものと仮定し、かつAは債務不履行に陥った借り手から何らの返済も受けないと仮定する。
注7 FASBステートメント89号、「財務報告と価格変動」では、貨幣性資産を”特定の財貨又は用役の将来価額とは関係なく、貨幣、もしくは固定的又は確定的な貨幣の総額を受領する権利”であると定義している。本ステートメントは「貨幣性負債」を”特定の財貨又は用役の将来価額とは関係なく、貨幣、もしくは固定的又は確定的な貨幣の総額を支払う義務”であると定義している(パラグラフ44)。

付録 A

73 この付録はステートメントにおける術語の定義又は語法を記述している。

資産(又は負債)の企業実体に特有の測定

その項目の使用(又は弁済)及び経済的耐用年数経過後の除却を通じて、企業実体が実現(又は支払う)と期待される将来キャッシュ・フローの現在価値。概念的には、企業実体に特有の価値は、企業実体の見積将来キャッシュ・フローについての同一の情報及び仮定を有していたとするならば、独立の第三者が取引に応ずるであろう金額である。言い換えれば、企業実体に特有の価値とは、企業実体の期待キャッシュ・フローについて、市場ならばそう評価されるであろう金額である。企業実体に特有の測定において前提とされる仮定は、資産の使用又は負債の弁済に対する企業実体の期待、及び資産の使用又は負債の弁済において企業実体独自の能力の役割が反映される。企業実体に特有の測定は、しばしば「使用価値」又は「企業実体に特有の価値」と呼ばれる。

期待キャッシュ・フロー

起こりうる期待値の加重平均値。期待現在価値とは、同じ利子率によって割り引かれたキャッシュ・フローの現在価値の加重平均値である。過去の公式見解において期待キャッシュ・フロー及び見積キャッシュフローという術語が交互に使われていたが、このステートメントにおいては、加重平均値に対して、期待キャッシュ・フローという術語のみが使用されている。

資産(又は負債)の公正価値

競売処分又は清算の場合ではなく、独立第三者間の取引において、資産(又は負債)を購入(又は発生)又は売却(又は弁済)する場合の金額。

フレッシュ・スタート法

期末において、過去の金額及び以前使用した会計慣行とは無関係に、新しく簿価を測定する方法。

利息法

資産又は負債の簿価の変化を現在価値を使って計算する会計慣行。アモチゼーションのように、これは取得原価主義の枠内にあたる。

現在価値

現在からキャッシュ・フローがある期間において、見積キャッシュ・インフロー又は見積キャッシュ・アウトフローを利子率によって割り引いた金額。

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