
2.法人格否認の法理(1996)
参照会社法の基礎p29 会社法講義p11
法人格否認の法理とは一般に会社の法人格の形式的独立性を貫くことが正義・公平に反すると認められる場合、特定の事案に対して会社の法人格の独立性を否定し、会社とその背後にある社員とを同一視して、事案の衡平な処理をはかる法理をいう。
そして、法人格の独立性を否認するとは、法人の「分離原則」を排除することを意味する。分離原則とは@会社の対外的活動から生じた権利・義務は法人である会社に帰属し、そして対内的には社員は会社との間に権利・義務を持ち、かつA会社に対して効果が生ずる財産法上の行為は会社の機関が行うことになり、社員の権限は制約を受けるということを意味する。法人格否認の法理は、この分離原則を当該事案に限り制限ないし排除することをいう。
元来、法人格は社会的に存在する団体の価値を評価して付与されるものであるが、小規模閉鎖会社において、法人格を隠れ蓑にして競業避止義務や契約義務を回避したり、企業結合のもとに、支配会社である親会社が子会社を不当な利益の獲得に利用することがしばしばある。そこで、議論あるものの、@法人格がまったくの形骸に過ぎない場合、またはAそれが法律の適用を回避するために濫用される場合、には法人格を否認すべきことが要請される場合を生ずるものであると解する(判例同旨)。ここにおいて、判例は法人格否認の法理を適用する要件として、@法人格の形骸化、A法人格の濫用を判示している。
そして、@法人格の形骸化が認められる場合は、支配の要件と会社財産と社員財産の混同、明確な帳簿記載の欠如、株主総会・取締役会の不開催など会社として必要な手続を無視しているという要件がいくつか重なった場合であり、A法人格の濫用が認められる場合は、支配の要件の他に利用者に違法・不当な目的があることをあげ、例としては、法律上又は契約上の義務の回避、不当労働行為、単独社員による保険事故招致などがあげられる。
しかし、@法人格の濫用については、我が国のように小規模会社が圧倒的に多い中では、会社の大部分が形骸化していると評価されることにもなりかねず、法人格否認の法理の実定法上の根拠を民法1条3項に求め、A法人格の濫用に限るべきではないかとの主張がある。しかしながら、この場合、法人格の形骸化を要件とする事例を総て排除することになり、行き過ぎであると解する。私は、法人格否認の法理は、法人の分離定理を示す商法54条1項の適用を制限する規範以上に限定すべきではなく、広くその適用可能性を今後に残すべきであると考える。
次に、法人格否認の法理が実質的に機能する領域は、一般に小規模会社と親子会社(結合会社)との両極を巡る法関係にあると考えられる。そして、法人格否認の法理は、主として会社債権者保護の法理として適用されることが多い。
これは、法人格否認の法理が、もともと立法の不備を補うものという性質を担っており、我が国においても小規模会社における過小資本規制の不備、親子会社における利益相反規制の不備等の会社法の未発達の分野、または外観理論など取引法の未発達の分野で生ずる不衡平を調整するために現れた一般条項の一つと考えられるからである。
そして、法人格否認の定理が適用される事案を、法人格否認の法理が会社債権者保護のためにあるという観点から理論的に再構築すると、会社法が予定する制度的利益を擁護すべき有限責任濫用事例と関係者当事者の個別的利益の調整をはかるべき個別的規範解釈事例とに分類しうる。
有限責任濫用事例においては、資本維持の原則と有限責任の原則との相関関係が問題となる。株式会社においては資本維持の原則のもとで、出資者が資本を出資し、維持することにより危険を引き受けるところに有限責任の原則を成り立たせる基本的前提条件があり、会社債権者保護機能を有する資本維持の原則と出資者保護機能をもつ有限責任の原則とは一種の対価関係にあり、一方が破綻すれば他も破綻するという関係にある。つまり、資本維持の原則が確保されていない会社においては、社員の有限責任を排除できることになる。そして具体的には、@小規模閉鎖会社における過小資本の会社、A大規模公開会社の子会社においてこのような対価関係が崩れている場合に適用されると解される。
次に、個別的規範解釈事例としては、例えば最高裁判決のいう形骸化事例がこれにあたるが、社員が会社を介してなす競業避止義務の拡大とか、個人名義の和解契約の当事者確定など、一般私法の法理により解決しえないわけではないが、なお分離原則の排除という技法を用いて解決された事例である。一般私法の法理によれば、通常の債権債務関係は、直接の当事者間の問題として解決されることが予定されているが、例えば小規模閉鎖会社における会社と株主の関係のように、当該会社が大株主とは別個の独立の利益に基づいて行動していないとすれば、個別規範の解釈において分離原則を貫くことは、かえって当事者に不当な結果をもたらす場合がある。そこで、法人格否認の法理が適用される余地があると解する。
最後に、法人格否認の法理は立法上の欠陥を補充する性格であり、従って、大規模公開会社にあっては、出資者と債権者保護のために計算の明確化、監査の充実、開示の強化などが求められ、小規模閉鎖会社においては、最低資本金のかなりの引き上げをなし、手続の簡素化を図るべきであると考えられる。
1.コーポレート・ガバナンスはいかにあるべきか。1995 1994
コーポレート・ガバナンスとは、語義からすれば会社統治の意味であり、つまり誰がどのように会社を支配するかということを意味する。
まず、我が国におけるコーポレート・ガバナンスの実態を考えた場合、上場企業平均で発行済み株式総数の7割以上が法人所有となり、6つの企業集団を中心とした株式の相互持ち合いが進んでおり、そのほとんどが安定株主である。そして、その安定株主は、株主総会において積極的な議決権行使をせず、現経営陣に白紙委任状を送るため、株主総会は形骸化し、取締役は、経営トップが部下から選んだ社内取締役だけというケースが多い。
また、安定株主の出現に関して、戦後、メインバンクが大きな役割を果たした。メインバンクとは一般にグループ企業への主要な資金提供者であり、経営の危機にあっては資金のみならず役員の派遣も行う主力銀行のことを指す。日本ではこのようにメインバンクの存在は大きいものの、バブル期においてはエクイティ・ファイナンスが盛んとなり、銀行からの借入が減少し、そして個人株主によるガバナンスも機能していなかったため、特にバブル期においては経営者支配の傾向が強かったと言える。
このように、相互持ち合いにより大株主を代表する取締役が実質的に株主総会を支配し、株主総会の実質的決定が代表取締役によってなされることになったため、会社経営をチェックする機能が低下し、バブル期においては数々の経営者による不正を引き起こしたものと考えられている。
そして、国際分散投資の流れの中で、米国の年金基金は日本企業への投資を増加させている。米国では90年代に入って年金基金の規模が拡大し、株価の下落から簡単に株式を売却できなくなったということから、積極的に議決権を行使する動きが見られる。
以上のように現在、経営者支配による専横や国際化の流れの中でコーポレート・ガバナンスが如何にあるべきかが我が国で問われていると考えられる。
次に、現行の会社法を考えるならば、株主こそが会社を支配しており、取締役ら経営者は株主によって経営を委任されたにすぎないと考えることができる。すなわち、社会に散財する遊休資本を結集し、大規模な共同企業形態を営むために、株式会社は間接有限責任制度を採用し(200条1項)、そのため株式会社は多数で絶えず変動する株主によって構成されている。そして、合理的な会社経営のため、所有と経営が制度的に分離され(254条2項)、経営の専門家たる取締役に会社経営を委任することになっている(254条3項 民法644条)。
従って、代表取締役への権限の集中や実質的執行権限の拡大を防止し、会社経営の適正化を図るためには、株主権の拡充と監査役の権限の増大による相互牽制、また株式の相互保有の規制が必要になると考えられる。
具体的には、株主の監督是正権として、代表訴訟等の強化。
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ディスクロージャーの拡大、監査役の権限の強化などが考えられる。
次に、相互保有規制の厳格化が求められると考える。我が国においては、支配会社が被支配会社を通じて株主総会を支配し、議決権行使を歪曲化することが考えられ、また、支配会社、被支配会社相互で増資をなすことにより、資本の空洞化を生むおそれがあることから、他の会社の株式数の四分の一を超える株式を保有している支配会社の議決権を被支配会社が行使してはならないことが定められている(241条3項)。しかしながら、この比率をもっと下げる必要があると考えられ、近年、純粋持ち株会社の解禁とならんで考慮される点があると考えられる。
また、エージェンシー理論に立脚してコーポレート・ガバナンスを考えることができる。エージェンシー理論とは、人間関係をプリンシパル(依頼者)とエージェント(代理人)の関係と見て、その権限の委託・受託関係を分析する理論的枠組みである。通常、情報の非対称性のためエージェントがプリンシパルの利益を犠牲にして自己の利益を追求する危険が生じるが、これを抑止するために、エージェントとプリンシパルの利益を一致するようなインセンティブをあたえること、また、エージェントの行動を監視するモニタリング・システムを構築することが求められる。
株主をプリンシパル、取締役などをエージェントとみて、モニタリング・システムとして考えられるのは、例えば監査が代表例としてあげられる。
ストックオプションとは、時価より低めに設定された価格で自社の株式を取得できる権利をいう。株価が上昇すればそれだけ、経営者の利益が増すことになり、経営者の利益と株主の利益が一致するインセンティブになり得る。しかし、通常、ストックオプションの行使は、新株の有利発行の形式となるので、株主総会の特別決議を要する(280条の2第2項、343条)。そして、この決議は、決議後6カ月以内に払い込みをなすべき新株に限られることから、この部分の調整が必要になると考えられる。自己株式保有規制の緩和と並んで考慮されるべきであると考える。
ファイナンス面の考慮
参考文献)会社法の基礎 奥島孝康 P260 経営学のカンどころ 水口剛 会計人コース96.3
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