〈監査基準委員会報告書第七号(中間報告)〉平成八年九月三日
日本公認会計士協会監査基準委員会

十分な監査証拠

本報告書の目的
監査証拠
十分な監査証拠
監査証拠の量的十分性
合理的な基礎
固有の危険の監査証拠
内部統制の監査証拠
取引記録及び財務諸表項目の監査証拠
監査調書
発効及び適用

本報告書の目的

1本報告書は、監査基準「第二実施基準一」監査実施準則一及び同二に規定する十分な
監査証拠に関する実務上の指針を提供するものである。

監査証拠

2監査証拠は、財務諸表に対する監査意見を形成するに足る合理的な基礎を得るため
に、監査計画の立案過程及び監査の実施過程において入手され、監査人が必要とする証
明力を備えたものである。

 監査証拠の入手源泉である財務諸表の基礎となる会計記録及び会計記録を支える証憑・
書類等には、総勘定元帳、補助元帳、伝票、これらの基礎資料、経理規程等が含まれ、
また、磁気媒体等で記録されたものも含まれる。監査計画の立案過程における固有の危
険の程度の評価に関する監査証拠は、財務諸表の基礎となる会計記録及び会計記録を支
える証憑・書類等よりさらに広い範囲から入手される。監査の実施過程における監査証
拠は、内部統制の検証手続、有価証券等の実査、棚卸資産等の立会、預金・売掛金・係
争事件等の確認及び分析的手続の実施等により入手される。

十分な監査証拠

3十分な監査証拠とは、内部統制の有効性を明らかにする検証手続の実施過程又は取引
記録及び財務諸表項目の監査手続の実施過程で入手する監査証拠が、監査要点との適合
性及び量的十分性を満たしていると監査人が判断した場合の当該監査証拠をいう。
監査要点との適合性
4監査要点との適合性とは、監査証拠が監査要点に対して有効に機能することである。
監査要点は、監査実施準則二に「取引記録の信頼性、資産及び負債の実在性、網羅性、
評価の妥当性、費用及び収益の期間帰属の適正性、表示の妥当性等の監査要点」として
例示されている。

監査証拠の量的十分性

5監査証拠の量的十分性とは、監査証拠を量的に過不足なく入手することである。十分
な監査証拠として必要とされる監査証拠の量は、監査人の専門的判断により決定され
る。

合理的な基礎

6監査人は、固有の危険の程度の評価を適切に行い、内部統制の検証手続並びに取引記
録及び財務諸表項目の監査手続において、その監査要点ごとに十分な監査証拠を入手
し、全体として財務諸表の適正性に関する監査意見を表明するための合理的な基礎を形
成しなけれぱならない。重要な取引記録及び財務諸表項目について、通常実施すべき監
査手続を適用できないことにより十分な監査証拠を入手できない場合には、合理的な基
礎を形成できないため監査意見の表明を差し控えなければならない。

固有の危険の監査証拠

7監査基準委員会報告書第5号(中間報告)「監査上の危険性と重要性」(以下「監査
基準委員会報告書第5号」という。)は、取引記録及び財務諸表項目の監査において、
その項目ごとに又は監査要点ごとに、固有の危険及び内部統制上の危険の程度を評価
し、その危険の程度に応じて、監査上の危険を一定水準以下に抑えるように監査手続上
の危険の程度を決定し、必要十分な監査手続の選択適用を求めている。

 固有の危険の程度を評価するために、固有の危険に影響を与える要因である経営環境を
把握し、また、取引記録及び財務諸表項目が本来有している特性を理解するために、監
査人は監査手続を実施し監査証拠を入手する必要がある。

 固有の危険の程度の評価に関する監査証拠は、監査意見を表明するための合理的な基礎
の形成に直接的に結びつかないため、十分な監査証拠を構成しない。しかし、固有の危
険の程度の評価に関する監査証拠の入手が適切でないと重要な虚偽記載を見逃すことと
なる場合があるため、その入手においては、専門的判断に基づいて慎重に行う必要があ
る。

8監査基準委員会報告書第4号(中間報告)「内部統制」(以下「監査基準委員会報告
書第4号」という。)

 第十項は、経営環境の把握を行う場合には、経営環境の要因が内部統制組織の整備及び運用に影響を与えることにより、これに関連する取引記録及び財務諸表項目に対して、具体的にどのような結果をもたらすかについて検討することを求めている。また、監査基準委員会報告書第5号第4項は、固有の危険の程度を評価するに際して固有の危険に関する情報を入手し、これらの情報が取引記録及び財務諸表項目に及ぼす影響を考慮することを求めている。

 例えば、棚卸資産の回転率等に関する分析的手続等を実施した結果、棚卸資産の増加の原因が正常な棚卸資産の増加によるものと判断した場合には、棚卸資産は正常な在庫水準にあると考えられる。しかしながら、新モデルの発売により旧モデルが陳腐化した棚卸資産の増加になると判断した場合には、棚卸資産の過大計上の可能性が存在する。棚卸資産の評価の妥当性という監査要点について、在庫増加原因等の固有の危険の程度の評価に関する監査証拠を入手し、固有の危険の程度の評価結果を、内部統制の検証手続並びに取引記録及び財務諸表項目の監査手続の決定に反映させることが必要である。
固有の危険の程度の評価に関する監査証拠を入手するに際しては、内部統制の検証手続
並びに取引記録及び財務諸表項目の監査手続の決定に反映させるために、監査要点との
関連を直接的に、又は直接的にできない場合には間接的にでも把握する必要がある。

内部統制の監査証拠

9監査基準委員会報告書第4号は、内部統制の検証手続により内部統制上の危険の程度
の評価結果である内部銃制の有効性の水準を決定することを明らかにしている。監査人
の内部統制の予備的評価の当否の決定が適切に行われることにより、内部統制の検証手
続により入手した監査証拠が、十分な監査証拠を構成することになる。

10内部統制の検証手続は、取引記録及び財務諸表項目の各監査要点ごとに又は主要な
取引サイクル若しくは取引サイクルの業務ごとに行われる。例えぱ、売掛金の実在性に
関連する内部統制組織から「売掛金の計上は、出荷の事実と照合した記録のある出荷報
告書に基づいて行う」という統制手続を検証手続の実施対象として選択したとする。こ
の統制手続の有効性の予備的評価の当否を確かめるために、特定の月における売掛金の
計上記録から適切な量のサンプルを抽出し、それらについて出荷報告書と照合する。そ
の結果、売掛金の計上記録が出荷報告書に基づいて行われていると監査人が判断した場
合には、予備的評価が売掛金の実在性に関連する内部統制組織の整備及び運用状況に関
する内部統制の有効性の評価結果となる。この場合に、内部統制の検証手続の実施によ
り入手した監査証拠は、売掛金の実在性に係る監査要点との適合性と量的十分性の要件
を満たしていると監査人が判断し、予備的評価を追認するのであるから、売掛金の実在
性に関連する内部統制組織の整備及び運用状況に関する内部統制の有効性の評価に対す
る十分な監査証拠を構成する。

取引記録及び財務諸表項目の監査証拠

11取引記録及び財務諸表項目の監査手続の実施により入手される十分な監査証拠と
は、監査上の危険を一定水準以下に抑えるように監査手続上の危険の程度が決定され、
その決定された監査手続上の危険の程度に応じた証明力のある監査証拠を入手するよう
計画が立案され、その計画された監査手続の実施により入手されたものでなければなら
ない。

 一般的に、監査基準委員会報告書第5号第11項及び第12項に記述されているよう
に、監査手続上の危険の程度をより低い水準に抑えるためには、監査証拠の有する監査
人が必要とする証明力は強い必要がある。

 監査証拠の証明力は、監査証拠の入手状況、入手方法及び入手時期によって左右されるが、監査人の専門的判断に委ねられる。誤謬や偏向が存在すると監査人が判断した情報は、監査証拠の有する監査人が必要とする証明力の判断に際しては、慎重な態度で臨まなければならない。

12十分な監査証拠を入手することができるように、選択適用する監査手続、その実施
時期及び試査の範囲を監査計画時に決定しなければならない。

監査調書

13監査人は、入手した監査証拠を監査調書に整理保存しなければならない。

発効及び適用

14本報告書は、平成8年9月3日に発効し、平成8年10月1日以後開始する事業年
度に係る監査から適用する。