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監査基準委員会報告書第5号(中間報告)「監査上の危険性と重要性」
目次
「監査上の危険性と重要性」
* 1 本報告書の目的
* 2 監査上の危険性の意義
* 3 固有の危険
* 5 内部統制上の危険
* 7 監査手続上の危険
* 8 監査上の危険性の評価に関する監査調書の作成
* 10 構成要素の相互関係
* 12 監査手続上の危険の程度と適用する監査手続等との関係
* 13 虚偽記載の重要性の判断基準
* 14 虚偽記載の重要性と監査上の危険性との関係
* 15 虚偽記載の重要性の量的側面と質的側面
* 17 虚偽記載の重要性の基準値の決定
* 19 虚偽記載の重要性の基準値の見直し修正
* 20 監査意見表明に当たって考慮すべき虚偽記載の重要性
* 21 発効及び適用
監査基準委員会報告書第5号(中間報告)
「監査上の危険性と重要性」
本報告書の目的
1.本報告書は、監査基準「第二 実施基準三」及び監査実施準則五で規定し
ている監査上の危険性と、それと密接な関係にある重要性に関する実務上の
指針を提供するものである。
監査上の危険性の意義
2.監査上の危険性とは、財務諸表に重要な虚偽記載が含まれているにもかか
わらず、監査人がこれを発見できずに不適切な意見を表明する可能性をいう。
監査上の危険性は、固有の危険、内部統制上の危険及び監査手続上の危険
の3つの要素で構成されている。
監査上の危険性を考慮する監査アプローチの主眼は、固有の危険及び内部
統制上の危険の程度を評価し、その危険の程度に応じて、監査上の危険性を
一定の水準以下に抑えるように監査手続上の危険の程度を決定し、必要十分
な監査手続の選択適用を計画実施しようとすることにある。
監査は、取引記録及び財務諸表項目を対象として実施されるので、監査人
は、財務諸表全体の監査上の危険性を基礎として、取引記録及び財務諸表項
目ごとに又はその監査要点ごとに監査上の危険性を考慮する必要がある。
固有の危険
3.固有の危険とは、関連する会社の内部統制が存在していないとの仮定の上
で、重要な虚偽記載が取引記録及び財務諸表項目に生じる可能性をいう。固
有の危険に影響を与える要因は、経営環境並びに取引記録及び財務諸表項目
が有する特性である。
(1)経営環境の影響を受けて、例えば、次のような固有の危険が生じる。
・ 景気の後退期になると、棚卸資産の在庫が増加し、陳腐化した棚卸
資産が滞留する可能性がある。また、与信先の業績が悪化し、債権が
回収不能になる可能性もある。
・ 会社が技術革新のテンポの著しく速い産業に属する場合には、生産
設備の陳腐化が著しく、遊休資産の発生の可能性が高い。また、陳腐
化し販売不能となった棚卸資産を保持する可能性も高くなる。
・ 商慣習が確立していない業界に会社が属する場合には、売上計上時
点が不明確であったり、代金の回収も規則的に行われなかったりして、
異常が識別しにくいので、不正が行われる可能性がある。
・ 為替相場の変動が激しい状況のもとでは、為替取引や金融商品取引
にかかわっている会社の場合、先物為替予約や通貨オプション取引な
どの失敗により巨額の損失が発生する可能性がある。
・ 受注産業に属する会社の場合、熾烈な受注競争が展開されると、裏
リベート等の支出が発生する可能性がある。
・ 不動産、宝飾品又は美術品などが商取引の対象となる場合には、そ
の取引価格に必ずしも客観性がないので、利益操作の道具とされる可
能性がある。
・ 顧客が特定少数である場合には、顧客が不特定多数の場合より、親
密な関係が構築できるので、不正が発生する可能性が高い。
・ 取締役会や監査役の監視機能が十分に作用していない場合には、経
営者や従業員が不正を行う可能性がある。
・ 経営者が積極的な経営方針を掲げ、厳しい販売目標を設定している
場合、従業員が、その圧力に耐えられず、押込販売を行ったり、架空
売上を計上する可能性がある。
・ 経営者が開示制度の重要性を十分に理解していない場合、会計方針
の採用につき、適切な判断ができなかったり、会計方針を適当に変更
して利益操作を行う可能性がある。
(2)特定の取引記録及び財務諸表項目が本来有している特性によって、次
のような固有の危険が生じる。
・ 現金や有価証券は、盗難の危険性が高く、また、経営者や従業員の
横領の対象となる可能性がある。
・ 資産の評価や引当金の計上は、経営者の見積りや判断を必要とする
ので、実際の商取引に基づく会計記録より虚偽記載の生じる可能性が
高い。
4.固有の危険の程度を評価するに当たっては、景気の動向、会社が属する産
業の状況、会社の事業内容、経営者の経営理念、経営方針、その他会社の経
営活動に関する情報を入手し、これらが取引記録及び財務諸表項目に及ぼす
影響を考慮しなければならない。また、会社の過年度の財務諸表数値、当該
事業年度の予算数値等及び今後の会社の事業計画等を十分に把握しなければ
ならない。なお、継続監査においては、過年度の監査で発見された虚偽記載
の発生原因、内容及び金額なども併せて検討することが必要である。
内部統制上の危険
5.内部統制上の危険とは、重要な虚偽記載が会社の内部統制によって防止又
は適時に発見されない可能性をいう。
6.内部統制上の危険の程度の評価は、内部統制の有効性の評価として行われ
る。具体的には、内部統制の有効性の予備的評価の結果を受けて、内部統制
上の危険の程度の暫定的評価が行われ、内部統制の有効性に関わる検証手続
を実施した後に行われる内部統制の有効性の評価に基づいて、内部統制上の
危険の程度の評価が決定される。
監査人は、内部統制の有効性に関わる検証手続を実施しない場合には、内
部統制上の危険の程度は高いと評価しなければならない。
なお、内部統制の有効性の評価に関する考え方は、既に公表した監査基準
委員会報告書第4号(中間報告)「内部統制」で明らかにされている。
監査手続上の危険
7.監査手続上の危険とは、会社の内部統制によって防止又は発見されなかっ
た重要な虚偽記載が、監査手続を実施してもなお発見されない可能性をいう。
監査上の危険性の構成要素のうち、固有の危険及び内部統制上の危険は、
被監査会社側に存在するものであるので、監査人はこれらの危険の程度を評
価することはできるが、その危険の程度を直接変動させることはできない。
これに対して監査手続上の危険は、監査人側に存在するものであり、監査人
は、選択適用する監査手続、その実施時期及び試査の範囲を勘案することに
より、その危険の程度を引き上げ又は引き下げることが可能となる。
監査上の危険性の評価に関する監査調書の作成
8.監査人は、監査計画立案の基礎とするために、固有の危険及び内部統制上
の危険の程度を個々に又は結合して評価し、その結果を監査調書として作成
する必要がある。
9.評価結果は、監査計画の立案に際して、監査業務を実施するための基本的
な方針、取引記録及び財務諸表項目に対して選択適用する監査手続、その実
施時期並びに試査の範囲の決定を行う場合の基礎となる。
構成要素の相互関係
10.監査上の危険性の構成要素のうち、固有の危険と内部統制上の危険につい
ては、監査人がこれらの危険の程度を個々に評価し、両者の評価結果を総合
的に勘案するか、又は固有の危険と内部統制上の危険を区分して評価せずに
両者を結合して評価することにより、これらの危険を生じさせる要因が取引
記録及び財務諸表項目に対して具体的にどのような影響を与えるかを検討し
なければならない。監査人は、これらの評価結果に基づき、監査上の危険性
を一定水準以下に抑えるために、監査手続上の危険をどの程度の水準にすべ
きであるかを決定する。
11.固有の危険及び内部統制上の危険の程度がともに高いか、又は一方の危険
の程度が中位であっても、もう一方の危険の程度が高い場合は、両者の総合
的な危険の程度が高いと判断する必要があるので、監査上の危険性を一定水
準以下に抑えるために、監査手続上の危険の程度を低くする必要がある。ま
た、固有の危険及び内部統制上の危険の程度がともに低いか、又は一方の危
険の程度が中位であっても、もう一方の危険の程度が低い場合に、両者の総
合的な危険の程度が低いと判断するときには、監査手続上の危険の程度を高
くしても監査上の危険性を一定水準以下に抑えることが可能となる。
このように監査人は、固有の危険及び内部統制上の危険の程度を総合的に
評価し、被監査会社の状況を十分に認識した上で、監査手続上の危険の程度
をどのような水準に設定すべきかを決定する。なお、危険の程度が高い、中
位又は低いという評価は、画一的な尺度に照らして行われるものではなく、
監査人の専門的な知識と経験に基づいて行われるものであり、その評価結果
は相対的なものであるといえる。
固有の危険及び内部統制上の危険の程度と監査人が設定する監査手続上の
危険の程度との相互関係を表にまとめると、次のとおりである。
− 構成要素の相互関係 −
固有の危険の程度
高 い 中 位 低 い
内 高
部 低 低 中
統 い
制
上 中
の 低 中 高
危 位
険
の 低
程 中 高 高
度 い
(注)表中の高、中、低は、監査人が設定する監査手続上の危険の程度を表
わす。
低:監査手続上の危険の程度を低く抑えるような監査手続が要求される。
中:監査手続上の危険の程度を中水準に保つ監査手続でよい。
高:監査手続上の危険の程度を高くしてもよい程度の監査手続でよい。
監査手続上の危険の程度と適用する監査手続等との関係
12.監査人は、監査手続上の危険の程度をより低い水準に抑えるためには、通
常、以下の対応をする。
(1)より強い証拠力を有する監査証拠を得るための監査手続を選択する。
(2)貸借対照表日により近い時期に監査手続を実施する。
(3)試査の範囲を拡大する。
また、固有の危険と内部統制上の危険の総合的な危険の程度が低いと判断
される場合には、分析的手続の適用範囲を拡大し、他の監査手続の適用範囲
を削減すること等によって、監査の効率化を図ることが可能となる。
虚偽記載の重要性の判断基準
13.監査人は、監査上の危険性を考慮する場合には、虚偽記載の重要性を検討
しなければならない。虚偽記載の重要性は、財務諸表全体に与える影響を考
慮して検討されるが、虚偽記載が重要であるかどうかは、財務諸表の利用者
の経済的意思決定に影響を与える程度と関連している。
虚偽記載の重要性と監査上の危険性との関係
14.監査人が考慮する虚偽記載の重要性と監査上の危険性との間には、相関関
係がある。他の条件が一定であれば、当初決定された重要性の基準値のもと
で評価された監査上の危険性は、重要性の基準値が変更されると、それに応
じて変化することになる。すなわち、監査人が虚偽記載の重要性の基準値を、
当初の値よりも大きくした場合には、監査上の危険性は当初の水準よりも低
くなり、また、虚偽記載の重要性の基準値を、当初の値よりも小さくした場
合には、監査上の危険性は当初の水準よりも高くなる。
したがって、監査人は、このような虚偽記載の重要性と監査上の危険性と
の関係を十分に理解した上で、当初決定した虚偽記載の重要性の基準値を変
更した場合には、その変更が監査上の危険性の水準に及ぼす影響を考慮し、
必要に応じて選択適用する監査手続、その実施時期及び試査の範囲を修正す
る等、監査計画の見直しを行わなければならない。
虚偽記載の重要性の量的側面と質的側面
15.監査人が財務諸表に含まれる虚偽記載の重要性を判断するに際しては、量
的側面と質的側面の双方を考慮しなければならない。
質的側面から虚偽記載が重要であると判断されるのは、次のような場合で
ある。
(1)監査の実施過程において発見された虚偽記載の金額が小さいため、当
該虚偽記載の量的重要性はないと判断される場合であっても、次年度以
降においてその虚偽記載の原因となった事象によって多額の債務の発生
する可能性が高いと判断される場合や多額の資産の喪失を招くおそれが
ある場合など、他の関連項目に重要な影響を与える可能性があると判断
される場合
(2)財務諸表に開示されている会計方針に関する注記その他の注記の文言
が妥当でないため、財務諸表の利用者に対して著しい誤解を与える可能
性があると判断される場合
16.監査人は、監査計画を立案する際、重要性の判断基準としては量を用いる。
監査人は虚偽記載の質的側面にも注意を払わなければならないが、金額的に
重要でない虚偽記載のすべてを発見できるように監査計画を立案することは
実務上困難である。しかし、監査人が、監査の実施過程で金額的には重要で
ないが質的側面から検討を要する虚偽記載を発見した場合には、虚偽記載が
発生した原因を把握し、監査計画を見直し、虚偽記載が他にも含まれていな
いか、又は他の項目に影響を及ぼしていないかどうかを確かめる必要がある。
虚偽記載の重要性の基準値の決定
17.虚偽記載の重要性における量的側面については、通常、監査人が決定した
虚偽記載の重要性の基準値に照らして検討が行われる。虚偽記載の重要性の
基準値は、財務諸表に含まれる虚偽記載の合計金額が財務諸表全体に与える
影響を考慮して決定される。監査計画立案段階における重要性の基準値の決
定に当たっては、通常、前事業年度の財務諸表数値や当該事業年度の予算に
基づく財務諸表数値などを基礎とし、一般的には、次に掲げる事項が考慮さ
れる。
・ 売上高に与える影響
・ 経常利益、当期純利益等の各段階損益に与える影響
・ 総資産に与える影響
・ 自己資本に与える影響
なお、監査対象事業年度の財政状態や経営成績が異常である場合には、上
述の事項について単に当該事業年度における影響のみを考慮するのではなく、
過去の事業年度の数値を参考として正常な財政状態及び経営成績を算定し、
それらも併せて考慮する必要がある。
18.監査人は、虚偽記載の重要性の基準値を基に、それぞれの取引記録及び財
務諸表項目ごとの重要性の値を考慮する必要がある。この値は、監査人の専
門的な判断をもって、虚偽記載の重要性の基準値より相対的に小さい金額と
して決定される。虚偽記載の金額が重要性の基準値を超えていない場合であ
っても、これらの虚偽記載の金額を合計すると重要性の基準値を超える場合
も考えられるからである。
虚偽記載の重要性の基準値の見直し修正
19.監査計画立案段階で決定される虚偽記載の重要性の基準値は、その後、見
直し修正される場合がある。監査計画立案の段階で決定した虚偽記載の重要
性の基準値の基礎となる財務諸表は、過年度の財務諸表又は当該事業年度の
予算に基づく財務諸表などが用いられるため、基礎とした財務諸表数値と当
該事業年度の財務諸表数値の実績との間に乖離が生じる場合がある。この場
合には、必要に応じて虚偽記載の重要性の基準値を見直すことが必要である。
監査意見表明に当たって考慮すべき虚偽記載の重要性
20.虚偽記載が財務諸表に含まれている場合には、監査意見表明に当たって、
以下の点を考慮する必要がある。
(1)個々の虚偽記載の金額が、虚偽記載の重要性の基準値を超えていない
場合であっても、その合計額によって重要性の有無を検討すること
(2)虚偽記載の金額が、当該事業年度においては虚偽記載の重要性の基準
値を超えていない場合であっても、将来において多額の資産の減少を招
くなど次年度以降の財務諸表に重要な影響を与えることが見込まれる場
合には、その旨財務諸表に開示がなされているかどうかを検討すること
発効及び適用
21.本報告書は、平成7年3月28日に発効し、平成7年4月1日以後開始す
る事業年度に係る監査から適用する。
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